2020年12月、南座の顔見世では父の代役で『熊谷陣屋』の源 義経を勤めさせていただきました。
この義経は僕にとって憧れのお役。『義経千本桜』では題名にまでなっている人物ですが、不思議なことに義経が主人公になる場面は一つもありません。
僕が高校生のときに『四の切(義経千本桜四段目の通称)』を監修なさった(尾上)菊五郎のおじさまが「義経は芝居の核だから、芝居をよくも悪くもするのが、義経なんだ」とおっしゃっていたのを覚えています。
それを伺うまでは義経は品のいい象徴的な存在だという認識だったのですが、このお言葉がきっかけで芝居の重要な役割を担う人物だという見方をするようになりました。
それからは、僕は義経を目標とし、『渡海屋』以外の場面ではすべて演らせていただきました。
歴史上の実際の義経は天才軍師だったので、兄の頼朝にとって脅威的な存在。それが歌舞伎に登場すると、少しずつ違うキャラクターとして描かれているのが面白いです。
『伊達競曲輪鞘當』の名古屋山三。2021年8月、歌舞伎座。© 松竹2021年10月は『お土砂(松竹梅湯島掛額の通称)』の小姓吉三郎を初役で勤めさせていただきます。
(中村)吉右衛門のおじさまのもとで修業をさせていただいた頃に、おじさまの紅長(紅屋長兵衛)を幕だまりや照明室から拝見したことが何度かあります。
古典作品にこれほどまで笑いの要素があって、時事ネタまで入ることに衝撃を受けました。今回は演じる側なので、先輩からしっかり教わって臨みたいと思います。
中村隼人(なかむら・はやと)
1993年、東京都出身。父は中村錦之助。2002年2月歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎役で初代中村隼人を名乗り、初舞台。2018年新作歌舞伎『NARUTO─ナルト─』にダブル主演し、2019年スーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』でダブルキャストで主演を勤める。NHKのBS時代劇『大富豪同心2』では主人公を好演。近年では古典の大役にも取り組み、立役スターとして活躍している。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
十月大歌舞伎
~2021年10月27日
●第一部 11時開演一、三代猿之助四十八撰の内『天竺徳兵衛新噺 小平次外伝』 二、『俄獅子』
●第二部 14時15分開演一、天満宮菜種御供『時平の七笑』 二、『太刀盗人』
●第三部 17時30分開演一、『松竹梅湯島掛額』 二、六歌仙容彩『喜撰』
※中村隼人さんは第三部の『松竹梅湯島掛額』に小姓吉三郎役で出演。
一等席1万5000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489
公演の詳細は歌舞伎公式総合サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp 表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/佐藤健行〈HAPP’S.〉 スタイリング/石橋修一 衣装協力/GOTAIRIKU(オンワード樫山)
『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。