プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 松茸の土瓶蒸し
土瓶を最近目にしなくなりました。お茶といえばペットボトルのものが当たり前で、茶葉から淹(い)れたお茶の味を知らない若い世代、土瓶や急須がない家庭も増えてきました。土瓶とは湯を沸かしたり、茶葉や薬草を煎じたりする陶製の瓶で、急須に比べると容量が大きく肉厚で直接火に掛けられるものもあります。
そんな土瓶を使った松茸の土瓶蒸しを今日は紹介します。その由来も諸説あって詳しくはわかりませんが、山里で採った食材をその場で調理しようとした際、鍋がなくて土瓶で代用したのが始まりだという説があります。確かに、「くわ(鍬)焼き」や「すき(鍬)焼き」なども身近な農具が由来となっているといわれますので、この説も同様の流れなのでしょう。
土瓶蒸しといえば、関西では“出会いもの”である旬の盛りの松茸と名残の鱧(はも)を入れます。鱧の上品な脂と旨みが松茸の香りと絶妙なハーモニーを奏でます。しかし、どちらも高級食材なので、どこのお店も鶏肉や海老、ぎんなんなどを入れて肝心の松茸はペラペラのものが少量だけというのがよくあるパターンですね(笑)。
松茸が堪能できる土瓶蒸しはよほどの高級店に行かない限り、食べられません。しかし、家庭で作ればお店よりリーズナブルに十分な量の松茸が楽しめますね。そして土瓶蒸しの醍醐味はたっぷりと入れた松茸から出る出汁です。土瓶ごと蒸すので旨みと風味が出汁の中にあふれ、吸いものというよりは鍋ものに近くなります。
食器棚の奥にしまい込んだ土瓶で家族の人数分を一緒に作り、皆で分けて楽しむのもいいですし、百貨店などでは洒落た土瓶や急須も売っています。松茸の土瓶蒸しをおいしく作って、野菜料理を賢く存分に楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「松茸の土瓶蒸し」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・土瓶蒸しの出汁は吸いものよりも少ししっかりした味にしたほうがおいしく感じる。
・具材は松茸をメインとするが、東坡豆腐を入れることで油分が加わって味に奥行きが出る。
・土瓶蒸しはあつあつで供してこそ、その醍醐味が味わえる。冷めないよう、供する前に土瓶ごと蒸し器に入れて温める。土瓶をそのまま直火にかけてもよい。
・三つ葉は長いまま結んで用いる方法もあるが、小口切りなど短めに切って土瓶に入れ、出汁と共に味わってこそ格別な味に。長めに切ると土瓶の注ぎ口に引っかかるので注意。
・柚子やすだちを土瓶の中に直接絞ると白濁してしまう。杯などに出汁を少しずつ注いで、まずはそのまま、次に果汁を絞ってと、味の変化を楽しむ。
「松茸の土瓶蒸し」
【材料(2人分)】・松茸 60g
・東坡豆腐 2個 「
東坡豆腐」参照
・出汁 300cc
・日本酒 大さじ1
・塩 0.5g強
・薄口醤油 小さじ1
・三つ葉(4〜5mm長さ、または小口切り) 少々
・すだち(かぼすでもよい) 1個
【作り方】1.松茸は石づきの土がついている部分だけを鉛筆を削る要領で薄く削ぎ落とす。香りが大切なのでなるべく水で洗わず、濡らしたキッチンペーパーなどで汚れを拭くくらいにする。汚れがひどい場合や乾燥していて落ちないときはボウルに水をため、つけるのではなく湿らせながら、指先で優しく洗う。「
松茸の佃煮、吸い物」参照。松茸の大きさに応じて食べやすく切る。
2.絹ごし豆腐を3cm角に切る。表面の水分を除いて揚げた後に煮含めて東坡豆腐にする。
3.鍋に出汁を入れ火にかける。温まってきたら、松茸を加えて沸かないように注意しながら中火でひと煮し、調味料で好みの味に仕上げる。
4.土瓶に東坡豆腐と3の松茸、出汁を入れて蒸し器に入れるか、直火にかける。温まったら三つ葉を加え、すだちを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗