プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 煮かんぴょうの海苔巻き
新かんぴょうが出る時期になりました。かんぴょうはゆうがおの実を薄くひも状にむいて2日間干して乾燥させた食品です。栃木県が全国生産量の98%以上を占めています。7月~8月にかけて収穫され、ゆうがおの実をロクロのような専用の機械にかけ、実を回転させてむきます。特有の甘みを引き出すために大切なのがその後の乾燥作業で、ハウス内で天気に応じて風を通したり、乾燥機を利用するなどして干し上げます。
甘い香りがし、よく乾燥して幅がそろった肉厚なものを選びます。無漂白のものと漂白したものがあり、無漂白のものは飴色をしており、漂白したものよりももどしやすいようです。漂白したものは二酸化硫黄で燻蒸(くんじょう)されます。二酸化硫黄には毒性がありますが、かんぴょうを下処理で塩もみする際に落ちてしまうので問題はありません。
私は寿司のかんぴょう巻きが大好きなのですが、上手に炊いたかんぴょうにはなかなか出会えません。おそらく寿司屋にとっての煮かんぴょうと、かんぴょう自体をおいしく食べるための煮かんぴょうとでは調味の加減、目指す食感も違うからだと思います。
糖質制限を意識しているわけではありませんが(笑)、今回は寿司飯なしのかんぴょうの海苔巻きを紹介します。寿司屋より薄味にして歯ごたえを残しているので、酒の肴にもぴったりです。
写真は4個盛りつけていますが、細巻きは通常6つに切ります。6つの瓢箪(ひょうたん)が並ぶ「六瓢(むびょう)」の柄は「無病」と音が同じことから、古来、吉祥文様とされてきました。同じ字を当てる6つの「干“瓢”」で今日も元気に野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「煮かんぴょうの海苔巻き」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘味 ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・寿司屋の煮かんぴょうはあくまでも寿司のたねなので、味を甘辛く濃くせざるを得ない。また、寿司飯に合うように柔らかめに炊く。かんぴょう自体のおいしさを楽しみたいなら、薄味で食感を残して炊く。
・炊き上がりにサラダ油を少々垂らしてかんぴょう全体になじませると味に奥行きが出る。
「煮かんぴょうの海苔巻き」
【材料(3人分)】・かんぴょう(もどしたもの) 100g
・塩(塩もみ用) 少々
・出汁 350cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・濃口醤油 35cc
・みりん 25cc
・砂糖 13g
・サラダ油 小さじ1
・焼き海苔 1.5枚
・わさび 適量
【作り方】1.かんぴょうは水洗いして表面の汚れを落とす。次に塩を少々ふりかけて繊維が柔らかくなり弾力が出るまでもみ洗いする。漂白したかんぴょうの場合は、この塩もみで二酸化硫黄を洗い流すことになる。無漂白のかんぴょうは塩を使わずにもみ洗いするだけでよい。塩を洗い流した後、たっぷりの水に10分ほどつけて塩気を抜くと同時に、さらに柔らかくもどす。もどすとかさは2倍くらいに増え、重さは3〜4倍になる。鍋にたっぷりの湯を沸かし、かんぴょうを入れて10〜15分くらい茹でる。1本つまんで親指の爪と人さし指ではさんで切れるくらいの堅さになったら取り出して冷ます。
2.かんぴょうの水気を絞り、20〜25cmの長さに切る。
3.鍋に出汁を入れ、調味料を加えて火にかけ、かんぴょうを入れる。沸いたら弱火にして、かんぴょう全体が煮汁につかるように時々混ぜながら10分ほど炊く。サラダ油を加えてひと煮立ちさせ、かんぴょう全体に油をなじませたら火からおろして、そのまま30分以上冷まし、味を含ませる。
4.かんぴょうが茶色くなり中まで味がしみ込んだら、汁気を絞ってバットに上げる。
5.かんぴょうをクッキングペーパーに広げて汁気を取り除く。焼き海苔はさっと炙って1枚を半分に切る。巻きすに焼き海苔をのせ、その上にかんぴょうを均一に伸ばし、巻き寿司の要領で巻く。6つに切ってわさびをのせて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗