国立劇場小劇場 文楽公演「ひらかな盛衰記」
国立劇場小劇場で12月19日まで開催されていた文楽公演。今月は「ひらかな盛衰記」の上演でした。
「ひらかな盛衰記」は、源平合戦で知られる樋口次郎と梶原源太の逸話を中心に、全体を義経の木曽義仲討伐から一の谷合戦までの全五段の物語。今回はその中から三段目の「大津宿屋の段」から「逆櫓」までの前に、「義仲館の段」を加えて上演されました。
写真提供/国立劇場京を逃れて木曽へと向かう木曾義仲の妻の山吹御前と跡継ぎの駒若君、腰元のお筆。大津の宿で敵に襲われ、暗闇の中を逃げる際に、若君と、隣の部屋に宿泊していた一家の子を取り違えてしまいます。
一方の船頭権四郎と娘のおよしは、間違えて連れてきた子を育てながら、いつか本当の孫が帰って来るのを待っています。しかし、訪ねてきたお筆が告げたのは、孫の槌松が若君の身替わりとなって敵に首を討たれたという悲しい事実でした。
かわいい孫の死を知って激昂する権四郎をなだめたのは、婿の松右衛門。実は彼は、義経を討つために身分を隠して入婿した、木曽の武将、樋口次郎でした。侍を婿に持ったのなら自分も侍の心を持たねばならないと、悲しみを押し殺す権四郎。その後、樋口は義経方に捉えられますが、権四郎がこの子は若君でなく自分の孫である、と訴え出たことで、若君の命は救われるのでした。
「松右衛門内の段」と「逆櫓の段」は歌舞伎でもよく上演されますが、今回はその前の、子どもが取り違えられ、槌松が殺される場面が加わったことで、ストーリーがよりわかりやすく、奥深く感じられました。
特に「笹引の段」では、腰元のお筆が大活躍。刃物をかざして敵と戦い、衝撃のあまり息絶えた山吹御前の亡骸を運ぶ姿は、男性中心に描かれがちな戦記ものには珍しい、覚悟を秘めた凛々しいものでした。