きものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。生涯、母は「物」との距離を一定に保つ人だった。自ら決めた絶対量があり、必要以上の物はすみやかに手放す。靴は3、4足、服も決して人前に出る生業の人とは思えないほど、こぢんまりとしたクローゼットに収まるほどしか持とうとしなかった。
ただし、着物だけは違った。4竿の桐簞笥と、アンティークのドレッサーひとつにひしめき合うほどの着物たちと、命尽きるまで大いに付き合った。それらと対峙する彼女は、何か覚悟を決めた厳しさと頼もしさをたたえた横顔をしていた。
和室に収められた4竿のきもの簞笥。板戸に描かれた幻想的な作品は、画家の木村英輝さんによる「枯れ蓮・Lotus revives(ロータス・リバイブス)」。咲き尽くした浄土の花の姿に、リバイブ(甦る)という言葉で巡る命を吹き込んだタイトルは、也哉子さんがつけたもの。日本人にとって、普段着というより
よそいきと化しつつある着物ではなく、日々の暮らしに根ざした昔の人々の着こなしに憧れていた。
時に、ルールを逸らすように帯板も帯揚げもせず、まるで空気をはらんだような、膨らみや皺も敢えて好んだのは、どうやら窮屈という理由だけでなく、その「抜け感」に心惹かれたからかもしれない。
そうして、職人の知恵と技が結集された衣衣に語りかけ、また多くのことを教わり、気がつけば彼女ならではの纏い方を見つけていた。