きっと誰しも「大切な人の話をもっと聞いておけばよかった」と後悔する瞬間があるだろう。たとえ神様に「この先、大好きなことを10個あきらめます」と心底誓っても、あの世から連れ戻すことなんてできない。
唯ひとつできるのは、遺されたものに煙のように漂う心象をそおっと集めること。それらを今一度、自分の中に吸い込んでから、ゆっくり吐き出したときに立ちのぼる新たなメッセージ。それは記憶の残像とは、ひと味もふた味も異なる。
きものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。その生を存分に生き切った母と、今この瞬間を生きている私の、時空を超えた対話になり得るかもしれない。
こうして肌に最も近い衣を羽織り、季節の移ろいを幾重も経てきた着物たちのささやきに耳を澄ますとき──それはメモワールなんかじゃなく、彼女との新たな出会いなのだ。
母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」
撮影/森山雅智 きものコーディネート・着付け/石田節子 ヘア&メイク/EITA〈iris〉 着付け/杉山優子 構成・取材・文/樺澤貴子
『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。