里いもの煮っころがし、味噌煮
今日は里いもの煮っころがしと味噌煮です。山で採れるいもを山のいもというのに対し、里いもは人里で採れるのでそう呼ばれます。のっぺい汁やいも煮など、里いもがなくては始まらない郷土料理は多いですが、それらは里いもを直煮(じかに。下茹でせずにそのまま炊く)して、いもから出るぬめりを上手に活用しています。
里いものぬめりには食物繊維が含まれるほか、血圧を下げコレステロールを取り除く効果、免疫系に働きかける力、胃や腸壁の潰瘍予防に役立つ成分も含まれているとされます。
であれば、ぬめりはできるだけ除かずにそのまま炊いたほうがいいということになりそうですが、一概にそうとも言いきれません。ぬめりは刺激性があり、風邪などでのどに炎症があるときやアトピー性皮膚炎、敏感肌の場合は、手で触れる皮むきや摂取などには注意が必要です。
また、ぬめりがあると炊いているときに吹きこぼれやすく、煮汁が濁ったり、味が浸透しにくくなります。9月に「
小いもの含め煮」で紹介したように、下茹でしてぬめりと雑味を除くと薄味でもおいしく、色もきれいに仕上がるのも事実です。
里いもの皮をむいていると手がかゆくなることがあります。酢や重曹を加えた水につけながら皮をむくとかゆみの予防にはなりますが、つけ過ぎるといもの表面が堅くなります。また、皮付きのまま2~3分茹でて水で冷やして皮をむくのもかゆみ防止にはなりますが、二重加熱となり表面が煮崩れしやすくなります。1~2日干した後にむく方法もありますが、これは「
小いもの含め煮」で既に紹介済みですね。かゆみ対策としては最終的には調理用のビニール手袋やゴム手袋を使うのが一番確実です。
下茹でしてから炊くか?直煮にするか? どちらもそれぞれにおいしいのですが、夏から初秋にかけてはぬめりのある直煮は重たく感じるので、下茹でしたほうがいいと私は思います。10月も後半になり寒くなってきたら、直煮のまったりしたおいしさを試してみてはいかがでしょう。今日は家庭で里いもを直煮にするコツをお教えします。プロ顔負けの野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「里いもの煮っころがし」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・手がかゆくなる成分はぬめりの中に含まれ、皮の下2〜3mmくらいのところに多くある。大きめの里いもは皮を厚めにむいてその部分を除く。
・ぬめりを生かしておいしく炊くには、ぬめりと雑味を適度に除く目的で2〜3分茹で、そのまま水に落とさず、同温の出汁に移して炊く。出汁に移してからはいも全体が柔らかくなるまでは調味料を加えない。
・味にこくを出すために、仕上がる直前に油を加える。
・作って時間がたつといもの水分が出てくると同時に、いもの中に味がしみていき、素材の味を表面の煮汁で食べるという煮っころがしの醍醐味が失われていく。その日に食べられる分だけ作る。冷蔵庫に入れると一気に味が落ちる。
・「里いもの味噌煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・味噌煮という名前ではあるが、味噌はあくまでも風味をつける役割なので、加え過ぎない。
「里いもの煮っころがし(右)」
【材料(2人分)】・里いも(中) 10個(200g)
・出汁 350cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・砂糖 小さじ1/2
・みりん 小さじ1
・薄口醤油 小さじ1
・濃口醤油 小さじ1
・サラダ油 小さじ1弱
・柚子(お好みで) 少々
【作り方】1.小さめの里いもは泥を洗って干した後、布巾などで皮をむく。「
小いもの含め煮」参照。大きめの里いもの場合は、調理用ゴム手袋をして包丁で厚めに皮をむく。
2.鍋に里いもを入れ、いもがつかるくらいの水を注いで火にかける。沸いたら中火にして2〜3分茹でてぬめりと雑味を除く。直煮の場合、ぬめりと雑味も味のうちなので好みで茹で時間を加減する。
3.同時進行で鍋に出汁を注ぎ火にかける。2のいもを茹で湯から穴あきおたまですくって熱い出汁に移し、いも全体が柔らかくなるまで弱火〜中火で炊く。
4.竹串などで刺して芯まで柔らかくなったら、砂糖とみりんを加える。3〜4分ほど弱火で炊いたら、塩を加えてさらに2分ほど炊く。煮汁が最初の半分くらいになったら薄口・濃口醤油を加えて煮汁を煮つめつつ、いもに絡めていく。
5.「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真くらいに煮汁が煮つまったら、サラダ油を加えていも全体になじませ火からおろす。好みで柚子の皮をすりおろしてふりかけてもよい。柚子こしょうを添えると酒の肴としてもおいしい。
「里いもの味噌煮(左)」
【材料(2人分)】・里芋(中) 10個(200g)
・出汁 350cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・砂糖 小さじ1/2
・みりん 小さじ1
・薄口醤油 小さじ1
・信州味噌 10g
・粉山椒 少々
【作り方】1.途中までは「里いもの煮っころがし」の1〜4に同じ。ただし4のときに濃口醤油は加えない。
2.「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真くらいに煮汁が煮つまったら、香りが飛ばないよう最後に味噌を加えて煮汁をいも全体に絡めて火からおろす。粉山椒をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。