この枕の素描から二年後、イタリアからの帰途に制作された風景素描《アルコの風景》(下・図4)の岩壁にも頭部が見出せるという指摘もあります。
図4 アルブレヒト・デューラー《アルコの風景》1495 年、水彩、紙、ルーヴル美術館、パリ一つは、頂上に城が見える山腹の城壁左下に男性の横顔がはっきりと描かれ、もう一つは、その対面にある絶壁に右を向く男性の細長い横顔が確認できるのです。
興味深いことに、現地の写真を見ると、画面左端の岩壁は実際にはそこにありません。つまり、デューラーは、アルコの岩山に架空の岩壁を組み合わせたようなのです。それは、二人の男性頭部が向き合うように構成したかったからなのでしょうか。しかし、その理由はまだ明らかにされていません。
この絵にも一対の人面が対面して描かれている。現地調査の結果、画面左端の岩壁はそこには存在していなかった。デューラーと同時代に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチは、潜在的なイメージについて『絵画論』の手稿で次のように言及しています。
「多数の染みがついた
汚れた壁を見ることで、君はありとあらゆる種類の山々、河、岩壁、樹木、植物、平原、谷間などのある風景の類似物を見出すことができるだろう。これに適当な形態を与え、完全にすればよいのだ」(傍点筆者)。
レオナルドが考えていたことをデューラーはイタリアに行く前に枕の皺で実践していました。デューラーが、レオナルドによる未出版の『絵画論』を読めていたとは思えません。友人の人文学者を通じて内容を知り得た可能性もありますが、こうした一致は画家たちの同時代性によるものと考えるべきでしょう。