プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 松茸飯、焼き松茸
私たちの日々の生活はいろいろな“におい”に取り囲まれています。嗅いだ経験のあるにおいから特定の食べものが思い浮かび、季節や場所などを連想し、懐かしい情景も甦ります。時にはにおいによって危険を察知することもあるでしょう。
このようににおいは人々の日常生活と密接な関係にあります。したがって生活環境や習慣、食を含む文化的背景が違えば、おのずとにおいに対する嗜好も変わります。国や人種が違えば匂いに対する感受性は変わって当然です。
その典型的な例が松茸とトリュフのにおいの嗜好に見られます。どちらもその香りに価値がありますが、松茸は日本人にとっては好ましい香りととらえられるのですが、欧米人にとっては履き古した靴下のにおいと表現されるそうです。学名も“Tricholoma nauseosum”で不快臭のするキシメジだそうです。逆に、トリュフのにおいは欧米人にとっては高貴な芳香とされますが、日本人にとってはあまり歓迎されるにおいではなく、ガス臭い海苔の佃煮のにおいなどと表現されることもあります。
松茸は笠の開き加減でつぼみ、中開き、開きと呼ばれる。「ちょっとしたコツ」を参照。「匂い松茸……」と日本人の大好きな松茸ですが、実は松茸以外のきのこも多少の差はあれ、マツタケオール(松茸の香気の中で最も多い成分)を持っています。しかし、松茸と同じにおいがしない理由は、きのこ臭はマツタケオールと他の香気成分が合わさったもので、その微妙なバランスで香りが決まるからです。香水の調香師の世界のようですね。
料理も同じで加える調味料の種類や調理法は同じでも、でき上がりに雲泥の差があることがあります。知識とスキルの習得は当然ですが、そこに経験値が加わったとしても、最後はカン(勘、感覚)とセンスにかかっています。私は知識やスキルをお教えすることまではできます。そこから先はご自身のカンとセンスで松茸の香りを引き出し、“最香”の野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「松茸飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
松茸飯に副材は不要。松茸だけを加えて炊き上げるが、
油分を隠し味で加えるとよりおいしくなる。油揚げを一緒に加え、炊き上がったら除く。
・松茸を多めに加えると
きのこから出る水分で炊き上がりが柔らかくなる恐れがあるので、加える水分を少し減らす。「
きのこ飯、きのこ汁」参照
・「焼き松茸」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
松茸には笠の開き加減でつぼみ、中開き、開きがある。開きは値段が安く、鮮度が良ければ笠が開いているため香りが強いので、焼き松茸に適している。
・
笠の開きが五分くらいまでで弾力があるものがよい。笠の裏のひだが黒ずんでいるものは香りが抜けていることが多い。
・
松茸は七輪などで“丸のまま焼く”のがよい。グリラーやオーブントースターなどでもよいが、火が早く通るようにと小さく切って焼くと水分と香りが抜けてしまう。焼き上がったら手で裂く。
※写真の焼き松茸は焼いている様子ではなく、焼き上がりの盛りつけ例。
「松茸飯」
【材料(2人分)】・米 1合
・松茸 100g
・油揚げ 1/4枚
・昆布出汁 165cc
・薄口醤油 大さじ1
・日本酒 大さじ1
・三つ葉(小口切り) 大さじ1弱
【作り方】1.米は炊く30分以上前に研ぎ、ざるにあげておく。
2.松茸は石づきの土がついている部分だけを鉛筆を削る要領で薄く削ぎ落とす。香りが大切なのでなるべく水で洗わず、濡らしたキッチンペーパーなどで汚れを拭くくらいにする。汚れがひどい場合や乾燥していて落ちないときはボウルに水をため、浸けるのではなく湿らせながら、指先で優しく洗う。洗い方は「
松茸の佃煮、吸いもの」のひと目でわかるプロセス&テクニックを参照。
3.松茸を食べやすい大きさに切って米と一緒に炊飯器に入れる。隠し味で油分を加えるため、油揚げを開いて、そのまま炊飯器に入れる。
4.昆布出汁(炊き上がりの柔らかさの好みで量を加減する)に調味料を加えて溶かし、炊飯器に加える。全体をひと混ぜして炊飯器のスイッチを入れる。
5.炊き上がったら、油揚げを除いて全体をふんわりと混ぜて器に盛り、三つ葉をかけて供する。
「焼き松茸」
【材料(2人分)】・松茸(中くらいの開き) 1~2本
・日本酒 少々
・塩 少々
・すだち 1個
・割り醤油(濃口醤油1:出汁1)
【作り方】1.松茸は「松茸飯」の2と同じ様に下処理して洗い、日本酒をふりかけ薄く塩をする。
2.予熱したグリラー(オーブントースターでもよい)に松茸を入れて焼く。松茸はできるだけ丸のまま焼いたほうがよいが、グリラーに入らなければ、なるべく大ぶりに切って焼く。
3.ところどころに焼き目がつき、全体が柔らかくしんなりしたら取り出して、手で裂いてあつあつを供する。すだちと割り醤油で食する。出汁と1:1で割ったポン酢でもおいしい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗