川野医師の診察室から
*実際の症例をもとに内容を変更して掲載しています。
【ケース・1】
定年退職後に居場所を失い、軽うつ、イライラ、体調不良。近所づきあいのストレスも→マインドフルネス講座を受講。偏ったプライドも氷解し、若い人に経験を伝え始めた
定年退職後、新たな居場所を模索していたA男さん(67歳)。人事部の部長を務めた現役時代の自信からか、地元のコミュニティになじむことができません。やがて胃もたれ、下痢、軽うつ、イライラなど自律神経失調症の症状が表れ、近所の人と軽いトラブルを起こすようになってしまいました。
このままではいけない、とネットで検索するうちにマインドフルネス実践講座の通信教材を見つけたA男さんは、興味を抱いて受講。お寺での坐禅会にも参加するようになり半年が過ぎた頃から、偏ったプライドが少しずつ氷解していきました。
それと同時に自分の経験を若い人に伝えたいとの思いが湧き上がり、公民館主催の市民講座の講師を引き受けることになりました。豊富な社会経験に基づくA男さんの「人間力を高める講座」は若い人にも好評だそうです。
「講座の最後の10分間を瞑想の時間に当てています。幅広い年代の人が受講してくれて、現役時代よりも生きがいを感じて日々を過ごせます」と晴れやかな表情で報告してくださいました。
【ケース・2】
“やらされていた”仕事。アイデアも浮かばず行き詰まり、意欲も低下→瞑想に興味を持ち習慣に。“人々のため”の視点で発想が浮かび評価も上がった
化粧品メーカーの企画開発部門に勤めるB子さん(35歳)は仕事に行き詰まっていました。与えられた課題をこなすのに精一杯で、新しい企画を考える意欲も自信も失いかけていたのです。
あるとき企業研修で私のマインドフルネス講座を聴いて興味を持ってくださり、ご自身で瞑想を行うようになりました。変化を実感し始めたのは3か月ほどたった頃。仕事を“やらされていた”自分、その疲れに対してケアを怠っていた自分に気づいたのです。
「人々にマインドフルネスを伝えたいと思うようになり、それをふまえた新製品のアイデアが次々と浮かんできました。プレゼンも評価され、開発リーダーを任されることになりました」。
自分を大切にする自利の実践が他者の役に立ちたいと思う利他の心を育み、さらに自らの評価も高めたB子さん。自利→利他→自利の循環が一人の心の中で起きたといってよいでしょう。
川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となり、寺務と精神科診療、マインドフルネスの普及に力を注ぐ。近著に『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/