言われた方も言う方も温かな気持ちになる「ありがとう」。世の中に幸せを循環させる優しくて力強い言葉です。大切な人と自分、そして物に対する感謝の瞑想をご紹介します。
感謝の瞑想
〔基本〕お世話になった人と自分に「ありがとう」目を閉じて深呼吸をしてから、少しの間呼吸瞑想を行います。まず、自分が過去にお世話になった人と、その人にしてもらったことを思い浮かべます。たとえば両親や兄弟、学校や習い事の先生、勤め先の上司、友人など。それぞれの顔を思い出しながら、「◯◯してくれてありがとうございました」と心の中で感謝を言葉にして表しましょう。
「ピアノを一生懸命教えてくれてありがとうございました」「失恋したときに私の話を聞いてくれてありがとうございました」など具体的なことでも、「愛情たっぷりに育ててくれてありがとう」など漠然とした思いでもかまいません。
ここで深呼吸をしてリセットします。
次に現在の自分の暮らしに意識を向け、今自分がお世話になっている、助けられていると思う人をイメージして、同じように心の中で「◯◯してくれてありがとうございます」と伝えます。
再び深呼吸をしてリセットします。
最後は自分への感謝です。自分自身に「いつも頑張っているね、ありがとう」とお礼を言いましょう。イメージしにくい場合は、たとえば両足に「いつも一生懸命歩いてくれてありがとう」、心臓に「休まず動いてくれてありがとう」など体の一部に対する感謝を言葉にしてもよいでしょう。
下で紹介する「物に感謝をする瞑想」と組み合わせて就寝前などに行うと、穏やかな気持ちで一日を締めくくることができます。
〔応用〕愛用している大切な“物”に感謝する人ではなく、自分がいつも大切に使っている物に対して感謝をする瞑想です。
どなたにも「これだけは手放せない」という大切な物があると思います。時計、眼鏡、アクセサリー、帽子、ぬいぐるみ、スマホ、ノートパソコンなど、思い出が詰まっていたり、大事な人からの贈り物だったり、毎日身に着けている愛用品だったり、仕事に欠かせない便利な物だったり。
まず目を閉じて少しの間呼吸瞑想を行います。その物を手元に置いて触れながら(あるいはイメージするだけでもよいでしょう)、それがどのように作られ、その後、人から人へどのような経路で自分の手元に届いたかを想像してみましょう。次に、自分が手にしてから今までの、その物にまつわる思い出を想起します。
最後に「いつも私を助けてくれてありがとう」「私を楽しませ、癒やしてくれてありがとう」など愛用品への感謝を表します。物をより丁寧に扱えるようになると同時に、自然と穏やかな立ち居振舞いや、温かみのある言葉の使い方ができるようになるでしょう。
ワンポイントアドバイス
つらい記憶を伴う対象は避けて
「ありがとう」という感謝を想起する瞑想なので、基本的には楽しい、懐かしいなど幸せな思い出とつながる物が多いと思います。ただ、記憶は連鎖していくものですので、とても怖かったりつらかったりした、トラウマにつながるような経験と紐づきやすい物や体の一部をイメージすることは避けたほうがよいでしょう。
〔お話ししてくれたのはこの方〕川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
臨済宗建長寺派林香寺住職、精神科・心療内科医、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科医療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年より実家の横浜・林香寺の住職となり、寺務と精神科診療、マインドフルネスの普及に力を注ぐ。近著に『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。公式ウェブサイト https://thkawano.website/
「寺子屋ブッダ」https://www.tera-buddha.net/