12月 藤田箱
《藤田箱》19~20世紀国宝《曜変天目》が収められている箱。手前は最初の所有者(詳細不明)、2番目は藤田家の前の所有者である水戸徳川家が作ったもの。3番目が黒漆を塗り、面取りした角に蒔絵をほどこした「藤田箱」。奥が「藤田箱」を守るために作られた春慶塗の箱。
かつて藤田家には、箱を作る住み込みの職人がいたという。前の所有者の箱を廃棄せず、新しい所有者がその箱ごと収める新たな箱を作るという日本独自の文化により、箱の外側や蓋裏に書かれた文字、箱の中に入れられた書き付けなどが重要な史料となって伝わっている。
選・文=藤田 清(藤田美術館館長)割れないよう、傷つかないよう、中のものを大切に守るための箱。
美術品を手に入れると、ある人は箱に情報を書き、ある人は自家の札を貼る。
藤田家では、特に大切なものに新たな箱を作った。面取りに、黒漆、蒔絵で藤と鳥と蝶を飾った箱。この箱を守るため作った春慶塗の箱。これを見れば、藤田家がいかに大切にしたかを一目で伝えてくれる。
こうして、名品には時代を超えた物語が重ねられている。美術館も同じく、中のものを大切に守り、次の時代へ伝えていく役目がある。2022年、新しい美術館がオープンする。今も物語が綴られる途中だ。
作品のエピソードトーク
動画で藤田 清館長と谷松屋戸田商店の戸田貴士氏による、本作品のエピソードトークをご覧いただけます。
撮影/小野祐次 構成/安藤菜穂子
『家庭画報』2021年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。