自分の中にある純愛の心をどう呼び覚ますか
舞台『今ひとたびの修羅』(2013年4月、新国立劇場)より。小説『人生劇場』をもとに宮本 研が書いた昭和の名戯曲が、鮮やかに立ち上がった。撮影/谷古宇正彦
とはいえ、上方言葉で書かれた作品だけに、そのネイティブな関西弁は役に立つのでは?と尋ねると、「関西弁で純愛を語るのは難しい」と堤さん。
「近松の時代は違ったんでしょうが、関西人といえば、純愛より銭!ですからね(笑)。まずは、こうやって冗談ぽく考えてしまう僕の中にある純愛の心をどう呼び覚ますかが、忠兵衛を演じる鍵になると思います。人間力を試されている気がします(笑)」
一方で、大きな期待を寄せているのが、2008年の『人形の家』、2013年の『今ひとたびの修羅』、2015年の『三人姉妹』以来となる、梅川役の宮沢りえさんとの共演だ。一方的に芝居を進めて、きちんと対話ができない人が相手だと、形だけの芝居になってしまうが、「こちらが投げた台詞にちゃんと響いてくれる、素敵な俳優さんが相手役のときは、無理に自分の役をつくらなくてすむ」という。
「だから今回は、りえちゃんに頼りっきりになると思います。彼女は美しい人であると同時に、ある部分、非常に脆(もろ)いところがあって、それはたぶん、世の中や物事に対するものの見方がとてもピュアで、僕からすると、優しすぎるところからきている。そこが非常に魅力的で、なおかつ僕が知っている女優さんの中では突出している気がします。
共演していると、ときどき自分のいい加減さを見透かされているような気がして、ちょっと怖くなることがあるんですよ。ものをつくることに対する姿勢が本当に真っすぐな人なので、そのピュアなエネルギーをしっかり感じるところから始めたいと思います」
もちろん、蜷川氏からのバトンを受けて演出を務める、いのうえひでのり氏にも全幅の信頼を寄せている。劇団☆新感線を主宰し、ダイナミズムとケレン味溢れる演出で、劇団内外でさまざまな話題作を手がけてきたいのうえ氏は、先述の『今ひとたびの修羅』の演出も担当。
堤さんが演じる任俠道を貫く男はどこまでも格好よく、そんな男への愛に生きる、宮沢さんが演じる女は、健気で儚げでひたすらに美しく、まさに日本人の心の琴線に触れる作品となった。実力派揃いのキャストを迎え、本作にどんな息吹を吹き込むのか、期待は高まる。
「自分としては、りえちゃんやいのうえさんをはじめとするキャストやスタッフの皆さんと、とにかくたくさん話をしていきたいですね。その中で気づくことは、確実にあるので。僕は演劇の基礎をイギリス人の演出家デヴィッド・ルヴォーに叩き込まれたんですが、そこで身にしみて感じたのは、作品に関するディスカッションの大切さ。こうしてしゃべっていても、自分が何を不安に感じているのか、どうしたいと思っているのかがわかってきて、頭の中が少しずつ整理されていく感覚があります」