迷路のようなデザインに込められた美しさの極み
センターダイヤモンドはDカラーのフローレス、タイプ2A。同様に3ctを超すセンターサファイアはスリランカ産。こうした最高級の宝石はもちろんのこと、特筆すべきは122.34ctものサファイアを51.57ctにリカットしている贅沢、そして2470時間という途方もない制作時間。メゾンが誇る美の極みが、ここにあります。ブレスレット「トルク ラビリンス ブレスレット」(WG×ダイヤモンド・センター2.04ct×サファイア・センター3.41ct)1億9536万円(参考価格)/ヴァン クリーフ&アーペル ●お問い合わせ/ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク TEL:0120-10-1906カリブルの贅と職人の技術に圧倒される
解説/山口 遼(宝石史研究家)
丸く膨らんだ2つの円盤の中央にダイヤモンドとサファイアをセットし、徐々に細くなってゆく円筒で結んだ一見シンプルなデザインのブレスレット。回転する迷宮と名付けられた「ヴァン クリーフ&アーペル」の作品ですが、そのつくりはシンプルどころではありません。
まずはパヴェと呼ばれる敷石状のダイヤモンドで覆い尽くし、その間にカリブルカットのサファイアを用いるという、この上なく精緻なもの。しかも、日本のあみだくじにも似て、前後左右に走る多くの線のうち、2本だけが両端の石につながっているという凝りようです。それを見つけ出すのもこのブレスレットの楽しみ。デザインした人のニヤリとした笑みが想像できます。まさに遊ぶ迷宮です。
カリブルというカットは特定の形があるわけではありません。簡単にいえば、石をセットする前に金属の枠を作ってしまい、枠に合わせて石をすり落としていくというものです。
これに使われているサファイアは52カラット弱ですが、枠に合わせて研磨する前のサファイアは100カラットを優に超えていたはず。しかもこのカリブルは上の部分がカボションのように丸みを帯びている。
金属加工をする人と石を研磨する人とが、二人三脚で仕事をしなければ、これは作れません。単純に見える中にある恐るべき緻密さというのは日本の工芸の特色ですが、このブレスレットはそれを凌ぐ、稀に見る傑作といえるでしょう。
撮影/栗本 光
『家庭画報』2021年12月号掲載。
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