ナレーションでもおなじみのあの声が耳に心地いい。聖と俗が交差する唐ワールドをどう体現してくれるのだろう。――トモロヲさんの状況劇場(1963~1988年に唐氏が主宰していた劇団)との出合いは、どんなものだったのでしょう?
「高校3年のときに、夢の島で状況劇場のテント芝居(1975年『糸姫』)を観たのが最初です。衝撃でしたね。テレビや映画や、ほかのメディアでは一切観ることができない、ある種の“事件”を目撃したような衝撃。こんなすごい世界があるのか!と心臓を鷲掴みにされて。僕はそれからアングラ演劇を観るようになって、この世界に入ったので、唐さんの作品はある意味、自分のルーツでもあるんです。現実なのか夢幻なのかわからないような世界を生きている人達がいることを知って、こんな生き方もあるんだ!と、自分の人生の方向性のスイッチをオンにされた感じでした」
――今回、演出を手がける福原充則さんも、唐作品の大ファンですね。
「そうなんですよ。唐さんを相当にリスペクトしながら、言葉の意味を探りつつ丁寧に作品をつくっています。福原くんとは、以前、面影ラッキーホールというバンドの歌をもとにした舞台『いやおうなしに』(2015年)で一緒になったんだけれども、そのときの福原くんの脚本が本当に面白くて。歌詞のダークな世界観を痩せ細らせることなく、嫌なことは闇としてきっちり描いて、なおかつポップに見せる。すごく才能のある人が出てきているんだなと思った。その福原くんが演出する唐さんの世界に参加できて、とても光栄です」
――いちよ(寺島しのぶ)という女に魅せられた若者アキヨシ(柄本 佑)は、いちよ夫婦が住む日暮里の古ぼけたアパートに、自分の給料を毎月届けに来ていたが……という本作品で、トモロヲさんは、いちよの夫・大貫を演じます。
「戯曲の言葉の一つひとつを実際に肉体化していくと、色々わかってくるものがあって、人間の歪んだ悲しみっていうんですかね。そういうものを、いちよとアキヨシに対する屈折した愛情でもって、体現できればいいなと思っています。僕はさておき、しのぶさんにしても、本多劇場のこけら落しで父親の柄本 明さんが演じた役をやる佑くんにしても、絶妙なキャスティングだと思います。狂気の幻の女というのは、60年代から80年代には、映画や演劇の中にヒロインとしてたくさんいたけれど、今はなかなかいない。そういうヒロインを、福原さんとしのぶさんがどう料理して、お客さんがどう共感するのか、ポカンとするのか……? 興味深いです」
みうらじゅんさんとの音楽ユニット「ブロンソンズ」、パンクバンド「LASTORDERZ」など、音楽活動も継続中。