プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 松茸の玉〆(たまじめ)
11月になり、松茸もまもなく終わりになります。皆さま、十分に堪能されたでしょうか。昔は松茸がたくさん採れ、肉と松茸だけのすき焼きにすると、肉はすぐになくなるのに松茸は残ったなどという話を高齢の松茸採りの名人に聞いたことがあります。そんな食べきれないほど採れた時代の松茸料理を再現してみました。今、こんな料理をお店で出したら、成金趣味と白い目で見られてしまいますが(笑)。
その一つが松茸の笠蒸し(写真左)です。まだ開ききらない椀型をしたなるべく大きな松茸の軸を付け根から切り落とし、笠の裏のひだをスプーンで掻き取ります。そして笠のくぼみに卵出汁を注いで蒸し、松茸自体は食べずに松茸から出るエキスと香りが溶け込んだ卵の部分だけをスプーンですくって食べるというものです。
雰囲気をおわかりいただくために写真に撮りましたが、これを作りましょうという話ではありません。松茸を大きなしいたけに替えれば現実的で(笑)、これもおいしいです。
今回は松茸を玉〆、つまり、茶碗蒸しにしますが、松茸は最高のものである必要はありません。笠は他の料理に使って軸の部分だけでも結構です。ちょうど今頃、北米産などの輸入物が底値になりますので、それをたっぷり使って香り豊かなものにします。
ただ、松茸には虫食いがある場合があります。今日はその虫出しについてもお教えします。松茸の石づきを削ぎ落した際、ところどころに茶色の筋や穴があれば、虫(キノコバエの仲間の幼虫)が入っている可能性があります。加熱すれば問題はないのですが、気になるようであれば虫出しをします。松茸を半分に切って塩水(水1Lに塩大さじ1杯弱)の中に松茸を入れ、松茸が浮かないように上から皿などをのせて10〜15分ほどつけます。虫が出たら松茸を取り出して軽くすすいで使います。松茸を長く塩水につけておくと風味が飛ぶので、できるだけ短時間で虫を出します。ここで先人の知恵です。なすの皮やヘタを捨てずに干して乾燥させてとっておき、塩と一緒に水に入れると、虫はなすのあくを嫌って中から出てきます。干した皮やヘタがなければ、なすの切れ端を刻んで加えてもよいでしょう。
名残の松茸を賢く上手に調理して、香り豊かな野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「松茸の玉〆」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・卵の旨みというよりは、松茸の香りの移った出汁を味わうイメージ。卵液に出汁を多く加えてゆるくなめらかに蒸し上げる。
・松茸から出る水分を計算して卵出汁の濃さを決める。
「松茸の玉〆」(写真右)
左は松茸の笠蒸しを再現したもの。【材料(2人分)】・松茸 45〜50g
・卵 2個
・出汁 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・塩 1.5g
・薄口醤油 小さじ1弱
・三つ葉(葉のせん切り、軸の小口切りどちらでもよい) 少々
【作り方】1.松茸は石づきの土がついている部分だけを鉛筆を削る要領で薄く削ぎ落とす。香りが大切なのでなるべく水で洗わず、濡らしたキッチンペーパーなどで汚れを拭くくらいに。汚れがひどい場合や乾燥していて落ちないときはボウルに水をため、つけるのではなく湿らせながら、指先で優しく洗う。洗い方は「
松茸の佃煮、吸いもの」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」を参照。
2.卵をときほぐし、冷めた出汁と塩、薄口醤油を加える。通常は、出汁は卵の量の3倍強でよいが、松茸から水分が出るので少し控える。合わせた卵出汁を茶こしなどでこす。
3.松茸を食べやすく切って器に入れ2の卵出汁を張る。松茸は笠を他の料理に使い、見た目のよくない軸の部分だけでもよい。卵出汁の表面に泡が立ったら刷毛で除く。
4.湯が沸いて蒸気が出ている蒸し器に入れて、蒸気のつゆが入らないよう器の上にクッキングペーパーやアルミホイルを切ってのせる。蒸し器本体との間に箸を1本差し込んで蓋をし、最初は強火で3分くらい蒸し、内部全体に蒸気が回ったら、弱火にして10分ほど蒸す。蒸し器内部の温度が上がりすぎるとスが入るため、卵が固まる70~80℃の温度帯を維持するよう火の強さを加減する。10分ほどしたら、一度、固まり具合を確認して、蒸したりなかったら、再度、弱火で蒸す。電子レンジで作る場合は、それぞれの機種の説明に従う。
5.蒸し上がったら、三つ葉をのせる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗