プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 海老いも饅頭あられ揚げ
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海老いもの直煮」では海老いもの一番おいしい太い部分を使いましたが、残った細い部分の使い方について今日はご紹介します。細い部分だけでなく傷んでいた海老いもや普通の里いもにも応用できます。おいしい部位はなるべく手を加えず、持ち味を最大限に引き出すような料理の仕方をしますが、食味や食感が劣る部位は手を加えることでおいしくするのです。
海老いもの細い部分は繊維立って口あたりがよくないので、プロの中には使わずに捨ててしまう人もいます。筋張っているのが気になるようなら、そう感じさせないように調理します。
里いも類は一度炊いてから冷蔵庫で保存すると、肉質がしまって柔らかな食感が失われ色もボケてしまいます。そんなときはつぶしてなめらかにし、丸くまとめておいしく甦らせるという方法があります。
これを日本料理では〇〇饅頭などと呼びます。今回であれば海老いも饅頭ですね。いも類やゆり根、かぼちゃ、れんこん、たけのこ、冬瓜などをつぶして、魚介や鶏のミンチなどを包んで饅頭形に丸め再加熱するという料理です。
プロの場合は劣る食材を再生するのが目的ではなく、奇を衒(てら)うとまでは言いませんが、家庭ではできないくらい手を加えることで商品価値を高めようとする狙いがあります。そのままでもおいしい食材や部位を最初からわざわざつぶすので、料理の原則でいえば、肝心の食材の持ち味が生かされた料理とは言い難くなります。そこで料理の原則を大切にしているプロはそれを「つぶし仕事」と呼んで皮肉ります。
今日の料理は間違いなく素材の再生・再活用です。つぶしはしますが、つぶし仕事ではありません(笑)。知恵と工夫を存分に加えておいしい野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「海老いも饅頭あられ揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
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外はカリカリで中はなめらかに仕上げるという手法は「
じゃがいもの蓑揚げ」でも用いた。これは人が好む食感で、外側と内側の不均一さやコントラストが快感となる感覚を“ヘテロ感”と言う。人は多様な栄養を摂る必要があり、多様な栄養とは自然界では多様な食材を意味する。一口の中で食感が変わると多様な食材を食しているように本能的に感じるため好まれるといわれる。
・衣には、醤油焼きの煎餅も使えるが、揚げる際に焦げやすいので注意。また、醤油味が既についているので銀あんの味を薄めにする。
・揚げることで油分が加わり、味にボリュームが出る。
・全体的に穏やかな味に
一味唐辛子を添えることで味がしまる。
「海老いも饅頭あられ揚げ」
【材料(2人分)】・海老いも(炊いたもの) 130g 「
小いもの含め煮」参照
・もち粉 小さじ1/2
・カリフラワー(白) 15g
・ロマネスコ(緑のカリフラワー) 15g
・生きくらげ(乾燥きくらげでもよい) 5g
・白焼き煎餅 適量
・揚げ油 適量
・銀あん 約230cc
出汁200cc、塩1g、薄口醤油小さじ1/4、水溶き葛(葛粉1:水2。片栗粉でもよい)30cc
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.海老いもは炊いて30分以上おいて味を含ませたら、煮汁から上げて、汁気をクッキングペーパーで拭き取る。ジッパー付き調理用保存袋に入れてよくつぶす。裏ごしをすればさらになめらかになる。つぶしたいもの状態を見て、丸めるには柔らかすぎるようならもち粉を加えてよく混ぜる。耐熱皿に1cm厚さに広げたらラップを生地にぴったりと貼り付け、500Wの電子レンジで2分30秒加熱する。
2.カリフラワーとロマネスコは茎側から切り込みを途中まで入れ、手で裂いた後1cm角くらいの小房に切り分ける。鍋に湯を沸かしカリフラワー2種をそれぞれ入れて堅めに茹で、水に放さずざるに上げて薄く塩(材料外)をふる。生きくらげは茹でて1cm角に切っておく。
3.白焼きの煎餅をジッパー付き調理用保存袋に入れて5mm角くらいになるように粗めに砕く。
4.銀あんを作る。鍋に出汁を入れ、火にかけて調味料を加え沸いたら弱火にする。水溶き葛を加えてよく混ぜ、粉臭さがなくなるまで30秒ほど炊く。
5.海老いもの生地をボウルに入れ、カリフラワー2種と生きくらげを加えてよく混ぜる。生地70gを丸めて砕いた煎餅をつけ、170℃の油で揚げる。
6.きつね色に揚がったら器に盛り、銀あんをかけて一味唐辛子を添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗