金時にんじん酒肴3種
紅色が目に鮮やかな金時にんじんが出回り始めました。金太郎で有名な赤ら顔の坂田金時(さかたのきんとき)が名前の由来だとか。姿は金太郎とは違ってすらっと細長く、先端がとがっているのが特徴です。
にんじんには西洋系(五寸にんじん、ミニキャロットなど)と東洋系(金時にんじんなど)の2種類があります。原産地はアフガニスタンと言われ、その後、ヨーロッパへ伝わったものが西洋系となり、中国などアジアに伝わったものが東洋系になりました。
金時にんじんは肉質が緻密でやわらかく、強い甘みがあって煮くずれしにくいので煮ものに向いています。西洋にんじんに比べてカロテンが少ないので、カロテンに由来するにんじん特有の青臭さは少なめです。一方、リコピン(トマトに多く含まれている)が西洋にんじんより豊富なため、あの鮮やかな紅色になるのです。
今回はそんな鮮紅色の金時にんじんを細く刻んで三様に調理し、色変わりの割山椒に寄せ向(よせむこう)の趣向で盛りつけました。寄せ向は名残りの茶事などで一同に揃いの向付を出さず、あえて別々のものを使う趣向です。単純にバラバラなだけだと寄せ集め感が出てしまうので、瀬戸焼なら瀬戸焼、古染付なら古染付と何かの枠の中でいろいろと趣向を凝らして寄せるのがよい気がします。
せん切りにした金時にんじんという共通の枠の中で料理法を変え、形は同じで色変わりの割山椒に盛ります。今の季節にぴったりの風情で野菜料理をお楽しみください。
ちょっとしたコツ
・「金時にんじんのきんぴら」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・せん切りにしたにんじんを手早く炒め、調味料を絡めて食感が残ったきんぴらにする。時間がかかり過ぎるとにんじんが柔らかくなっておいしさが半減する。
・炒った黒ごまが色と食感のアクセントとなる。
・三つ葉は香りと食感を生かすため調味料を絡める途中で加えて半生に仕上げるか、サッと茹でたものを後から混ぜる。
・「金時にんじんの山椒油和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・食べる直前に山椒油と調味料を加えて和える。時間が経過すると生のにんじんの食感が失われ味のメリハリもなくなる。
・油分が多く含まれるカシューナッツを添えるため、山椒油は加え過ぎず山椒の風味を添える程度でよい。
・にんじんと相性のよいりんごを混ぜることで酸味と香りを添える。りんごの酸味があるため、加える酢は少なめでよい。
・「金時にんじんのオレンジ煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・調味したオレンジ果汁を沸かした中ににんじんとセロリを加え、サッと炊いたら鍋ごと氷水で冷やして食感を残す。
・揚げたそば米を添えることで油分と食感が加わりよりおいしくなる。
「金時にんじんのきんぴら(左)」
【材料(2人分)】・金時にんじん(1.5mm角×6.5cm長さ) 50g
・三つ葉(3cm長さに切る) 3〜4本分
・サラダ油 小さじ1
・日本酒 小さじ1/2
・薄口醤油 小さじ1/2
・砂糖 小さじ1/2
・黒ごま 少々
【作り方】1.にんじんはピーラーで薄く皮をむき、櫛刃をつけたスライサーでスライスする。適当な刃幅の櫛刃がなかったら、1.5mm厚さにスライスしたものを1.5mm幅でせん切りにする。
2.フライパンを火にかけ熱くなったらサラダ油をひき、にんじんを加え手早く炒める。油がなじんだら調味料を加えてフライパンを返しながら絡め、汁気がなくなり出したら三つ葉も加えて火からおろす。三つ葉は余熱で火を入れる。
3.器にきんぴらを盛り、黒ごまをかける。
「金時にんじんの山椒油和え(右)」
【材料(2人分)】・金時にんじん(1mm角×6.5cm長さ) 50g
・りんご(紅玉など酸味のあるもの) 2g
・せりの葉(三つ葉の葉でもよい) 少々
・カシューナッツ(ローストしたもの) 少々
・山椒油 小さじ1/4
・酢 小さじ1/2
・塩 小さじ1/4
【作り方】1.金時にんじんはピーラーで薄く皮をむき、一番刃幅の狭い櫛刃をつけたスライサーでスライスする。水に放したらすぐにざるに上げて水気をきる。洗ったりんごは皮付きのままにんじんと同じスライサーでスライスし細いせん切りにする。
2.ボウルににんじんとりんご、せりの葉を入れてふんわりと混ぜ、調味料を加えて器に盛り、刻んだカシューナッツを散らす。
「金時にんじんのオレンジ煮(奥)」
【材料(2人分)】・金時にんじん(1.5mm角×6.5cm長さ) 50g
・セロリ(2mm角×4cm長さ) 10g
・オレンジジュース(果汁100%のもの) 150cc
・レモン汁 小さじ1
・薄口醤油 小さじ1
・砂糖 大さじ1
・そばの実 少々
・揚げ油 適量
・オレンジの皮 少々
【作り方】1.金時にんじんは「金時にんじんのきんぴら」の1と同じようにせん切りにする。セロリは筋を除いてせん切りにする。
2.そばの実は165℃の油で揚げて、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.オレンジジュースを鍋に注いで火にかけ、レモン汁と調味料も加える。沸いたらにんじんとセロリを加えて再度沸いたら20〜30秒炊いて、用意しておいた氷水に鍋ごとつけて急冷する。
4.10分以上味を含ませ、一口量に束ねたものを3〜4束器に盛り、オレンジの皮をすりおろしたものとそばの実を散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。