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冬の煮ものの代表選手。大根を上手に柔らかく炊くコツをマスターしましょう

2021.11.14

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

大根の煮もの


大根の煮もの

寒くなるにつれておいしくなる煮ものの代表といえば大根ですね。おでんの一番人気も大根だとか。今日は大根の炊き方にまつわる私の失敗談をお話しします。

真冬の風の強い屋外で、大鍋に入れた多量の大根をプロパンガスの火で炊く機会がありました。鍋の大きさに対して火力が弱かった上に、強風が邪魔をしてなかなか沸かず、大根は火は入っているのにゴリゴリで柔らかくなりませんでした。勉強と経験がどちらも足りない若かった私は大根の質のせいだと考えました。


後に根菜類は、火の入れ方によって加熱しているのに堅くなってしまうこと(硬化現象)があることを知りました。火にかけ全体の温度が80〜90℃くらいになると炊くほどに柔らかくなりますが、その前の60〜70℃あたりでは逆に堅くなるのです。その理由は大根の細胞壁と細胞壁をくっつける役割を果たすペクチンが、60〜70℃で活発に働く酵素によって変性して大根を硬化させてしまうため。そしていったん堅くなると、もう柔らかくはなりません。

凍えるような寒さ、強風、火力の弱さという悪条件で炊いていた大根は、60〜70℃という温度帯に長時間とどまったためにゴリゴリの状態になったのでした。

大根の煮もの

したがって、大根などの根菜類を柔らかく茹でたり炊いたりするときは、強火で一気に温度を80℃以上まで上げなければなりません。「じゃがいもの梨もどき」でも触れましたが、この硬化現象は根菜類以外の野菜でも起き、それを有効利用する方法もあります。たとえばパック詰めおでんの大根はくずれては困りますので、この現象を上手に活用しています。

今日は柔らかく炊いた大根を加藤唐九郎作の瀬戸のどら鉢に盛りました。盛っている途中で“瀬戸物と瀬戸物がぶつかると壊れるが、どちらかが柔らかければ大丈夫”という意味合いの、柔らかな心を持つことの重要性を説いた相田みつをさんの詩を思い出しました。私の頭や心がこれ以上硬化しないよう情“熱”をさらに上げ、野菜料理を楽しみます。


ちょっとしたコツ


・「大根の煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激

大根の下茹でには米の研ぎ汁やぬか水、冷や飯を加えた水を用いる。水で茹でると素材から旨みなどの成分が茹で湯に溶け出てしまうが、研ぎ汁などの中にはでんぷんが含まれているため、旨みや甘みが溶け出るのを防ぐ

・また、でんぷんが表面全体を覆って空気中の酸素との接触から守るので、酸化による変色を防ぎ白く茹で上がる。同様に大根が持つ苦みやえぐみ、硫黄臭など不要な成分を吸着し取り除く働きがある。

・下茹での際は、強火で一気に温度を上げて、沸いたら弱火にして茹でる。

油揚げを開いて落とし蓋代わりにして炊くと、油分が加わりおいしくなる。







「大根の煮もの」


大根の煮もの

【材料(3人分)】
・大根(20cm) 1/2本

・出汁 1250cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい

・日本酒 大さじ 3

・みりん 大さじ1.5

・塩 5g

・薄口醤油 大さじ1.5

・油揚げ(開く) 1/2枚

・黄柚子 1/2個

【作り方】
1.大根は2.5cm厚さに切り、皮を厚めにむく。米の研ぎ汁を鍋に注ぎ、大根を入れて柔らかくなるまで18〜20分ほど茹でる。米の研ぎ汁がない場合は、残っている冷や飯(冷凍したものでもよい)を湯1Lに対してピンポン球1.5個くらい加えて茹でるとよい。

2.大根が柔らかく茹で上がったら、水に放して流水の中で表面のぬめりを洗い落として傷つけないようにやさしくざるに上げる。

3.鍋に出汁を入れ、水分を除いた大根を加えて、開いた油揚げを落とし蓋代わりにのせて火にかける。日本酒、みりんを加えて5分ほど炊き、塩を加えてさらに5分ほど炊く。最後に薄口醤油を加え5分ほど炊いたら、火からおろして30分以上おいて味を含ませる。

4.再度、鍋を火にかけて温め直したら、大根を器に盛る。白い部分を除いてからせん切りにした柚子の皮をのせて供する。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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