「役の品格も、細やかな心の機微もしっかり伝わるように演じたい」
――そんな尾上松也さんが新春浅草歌舞伎の第1部で挑むのは「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」の徳川綱豊卿。忠臣蔵のサイドストーリー的な台詞劇で、松也さん演じる綱豊卿は、血気にはやる赤穂浪士の富森助右衛門に道理を説く、 “上に立つ者”としての存在感が求められるお役です。
松也「歌舞伎には“品”や“格”を備えた高貴な役どころはたくさんありますが、綱豊卿は次期将軍とはいえ、まだ不遇の身であり、だからこそ人の傷みもわかる、懐の深い人。それを、より写実に近い新歌舞伎で表現するのは難しいですね。テクニックももちろん必要ですが、台詞一つ一つの説得力でお客様に共感していただけたら……と思うと、歌舞伎俳優として演劇人として、やりがいのあるお役です」
――第2部では「双蝶々曲輪日記 引窓」の濡髪長五郎に挑戦。2017年の新春浅草歌舞伎では、松也さんはこの物語の前段となる「双蝶々曲輪日記角力場」に出演していたので、新春浅草歌舞伎のリピーターにとっては、一年越しで続篇を観られることとなります。
松也「こちらは、親子そして家族の義理と人情を描いた義太夫狂言。僕が演じる濡髪長五郎は、恩義ある人のためとはいえ人殺しをしてしまい、ひと目顔を見たいと母のもとを訪れます。しかし母の育ての息子である与兵衛は、お尋ね者の自分を捕らえる役人という立場。すべての人の気持ちと行動が、本当にせつないお話です。それぞれが抱える複雑な心情が、お客様にしっかりと伝わるように演じたいですね」