新連載「長谷川父子が語る認知症との向き合い方・寄り添い方」でご協力をいただいていた長谷川和夫さんが2021年11月13日にご逝去されました。心からご冥福をお祈りいたします。 本連載では、ご子息の洋さんに託された和夫さんの認知症の人への熱い思いや診療の理念を引き続きお届けしてまいります。
長谷川父子が語る認知症との向き合い方・寄り添い方 第1回
「認知症になった父から学ぶことはたくさんあります」と精神科医の長谷川 洋さん。認知症になった認知症専門医として話題になった長谷川和夫さんのご子息です。父子の経験を交えながら認知症との向き合い方・寄り添い方の極意をお伝えします。
長谷川 洋(はせがわ・ひろし)さん長谷川診療所院長。1970年東京都生まれ。聖マリアンナ医科大学東横病院精神科主任医長を経て、2006年に長谷川診療所を開院。地域に生きる精神科医として小児から高齢者まで、さまざまな精神疾患の治療とケアに従事。聖マリアンナ医科大学非常勤講師、川崎市精神科医会理事、神奈川県精神神経科診療所協会副会長などを務める。長谷川和夫さんの長男。写真提供/長谷川 洋さん長谷川 和夫(はせがわ・かずお)さん認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長。1929年愛知県生まれ。74年、認知症診断の指標となる「長谷川式簡易知能評価スケール」を開発。「パーソン・センタード・ケア」の普及に力を注ぎ、認知症ケアの第一人者としても知られる。「痴呆」から「認知症」への名称変更の際も尽力。2017年に自ら認知症であることを公表し、社会的反響を呼ぶ。家族の認知症をどう受け止める?
「人生100年時代」といわれる今、認知症になる人が増えています。最大の危険因子は加齢で、高齢になればなるほど認知症になりやすく、2025年には700万人に達すると推計されています。
認知症とは、さまざまな病気や原因により脳の神経細胞がダメージを受け、記憶や言語、知覚、思考などの認知機能が障害されて日常生活に支障をきたすようになった状態のことです。
若くして認知症になる人もいますが、一般的には高齢になってから認知症になる人が多いです。厚生労働省の調査によると80歳から増え、85歳~89歳では全体の約40パーセント、つまり2.5人に1人は認知症になる計算です(下・図1)。
認知症研究の第一人者として何千人もの患者さんを診断・治療されてきた長谷川和夫さんの認知症を最初に診断したのは、精神科医である息子の洋さんでした。
それは2016年10月のことでした。当時、父は87歳。先の有病率データからみても認知症を発症してもおかしくない年齢で、ある意味、普通のことでした。診断をする少し前から、父の物忘れがひどくなっていて、本人も認知症を疑い、薬を使いたいといいだしたのです。
認知症の種類や特徴(下・図2、表1)はいろいろありますから親子で父の症状について話し合い、「アルツハイマー型認知症」という診断をつけました。
診断の際、父が開発した「長谷川式簡易知能評価スケール」は使用しませんでした。この認知機能検査は父の古い記憶に刻まれているため、認知症になってもすらすら答えられるからです。
その後、認知症を公表するにあたり、認知症専門病院で精密検査を受けたところ、高齢期に現れやすい「嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症」と診断されました。