長寿時代では誰もが認知症と向き合って生きていくことに
父・和夫さんは2017年に認知症であることを公表。洋さんが司会を務める認知症をテーマにした市民向けの講演会での出来事でした。
そのとき、司会をしていた私は「父が認知症になり、ほっとしています」とコメントしました。この話をすると驚かれます(笑)。父も私もいろんな場所で「認知症を完全に予防することはできません。誰でもなる可能性があるのです」といい続けてきました。
しかし、多くの人は認知症にならない方法があるのではないかと思っているようでした。日本で認知症に最も詳しい父でさえ、認知症になる。認知症は誰でもなることを証明できたようで、ほっとしたと申し上げたわけです。
父は、この長寿時代において誰もが認知症と向き合って生きていくことになるということも伝えたくて公表に踏み切ったようでした。
家族が介護をすべて背負い込むとくたびれます。介護のプロにできることはまかせて家族にしかできないことをしてあげればそれは認知症の人にとって幸せな時間になります。──洋さん
高齢になれば誰でもなり得るとはいえ、家族にとって認知症の人の介護は不安です。洋さんは「家族が介護をすべて背負い込むとくたびれます。介護のプロにできることはまかせて」とアドバイスします。
在宅酸素療法が必要になった父・和夫さんは今、母の瑞子さんと一緒に都内の老人ホームで穏やかに暮らしている。写真提供/長谷川 洋さん過去のことを思い出すのも今の体験になる。今を充実させるために過去の楽しいことを思い出すのはすばらしいことだよ。──和夫さん
それぞれの家族の事情があり、認知症の人へのかかわり方はこれが正解というものはありません。ただ、認知症を抱えていても穏やかに暮らすためには、家族もゆとりを持って向き合うことが大切で頑張りすぎないことです。
家族にしかできないことをしてあげれば、それは認知症の人にとって幸せな時間です。例えば、認知症になっても古い記憶は残っているので、思い出話をするのもいいでしょう。
「今を充実させるために過去の楽しいことを思い出すのはすばらしいことだよ」と父がいっていましたが、楽しい思い出話ができるのもその時間を共有してきた家族だからこそできることなのです。
撮影/八田政玄 取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。