干し柿なますの煮こごり
柿なますは既に紹介しましたが、今回は干し柿を使った柿なますです。なますとはもともと、古代中国で生肉や生魚を細かく切って調味料を加えた料理を指す言葉でした。今日はちなみにいい肉の日ですが、ユッケなどはその名残?でしょうか(笑)。肉を用いたものには「膾」、魚を用いたものには「鱠」という字を当て、『日本書紀』や『万葉集』にも「膾」の表記が見られます。その後、日本では魚介を酢などの調味料で味つけした料理、野菜や果物だけで作った料理(精進なます)に発展して酢のものと呼ばれるようになりました。
今日は干し柿なますを煮こごりにし、数種のカリフラワーの花蕾(からい)をみじん切りにしてさっと茹でたものを添えました。シャキシャキした柿なますと、それを包むとろけるような煮こごり、一口の中に共存するこの違った食感が、人間が本能的に好むヘテロ感といわれるものです。これまでも「
じゃがいもの蓑揚げ」や「
海老いも饅頭あられ揚げ」でも紹介した食感です。今回はカリフラワーを加えることで、さらに違った食感を追加すると同時に色彩のコントラストも出しました。
食感、色、味、それぞれ違うものが合わさることで、単独の場合よりも高いパフォーマンスを発揮する。料理もチームも夫婦も同じなのかもしれませんね。違うことの良さを生かせるよう工夫して野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「干し柿なますの煮こごり」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・大根とにんじんの甘酢漬けには酸が含まれるためゼラチンを使って固める。寒天で固めるには高度な技術が必要。
・板ゼラチンは、たっぷりの水に30分〜1時間つけて、十分に吸水させた後に使用する。
・ゼラチンは60℃を超すと熱変性が起きて固まりにくくなるので、温度に注意する。
「干し柿なますの煮こごり」
【材料(3人分)】・干し柿 1個
・大根の甘酢漬け 長さ3cm分
・金時にんじんの甘酢漬け 長さ3cm分
甘酢の作りやすい分量:昆布出汁(水1L、昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・秋ふき 1/2本
・漬け出汁
出汁90cc、塩0.1g、薄口醤油6cc、日本酒3cc
・甘露しいたけ(中) 1枚 「
きゅうりとしいたけの合い混ぜ」参照
・寄せるための出汁 適量
作りやすい分量:出汁360cc(かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい)、塩1.5g、薄口醤油小さじ2、日本酒小さじ1/2、板ゼラチン30g 「
夏野菜の煮こごり」参照
・カリフラワー(白、緑、紫、オレンジ) 各少々 ※1色でもよい
・カリフラワーの葉(花蕾の周りについている小さな葉) 緑、紫各3枚
・さつまいも 長さ3cm分
・揚げ油 適量
・ごま酢クリーム 適量
作りやすい分量:白ごまペースト(市販品)50g、酢大さじ3、砂糖大さじ3弱
【作り方】1.大根は甘酢漬けにする。大根を幅7mm、厚さ2mmの短冊状に切って、濃度3%の塩水(材料外)に10分ほどつける。大根がしんなりしたらざるに上げて水気をきり、甘酢に30分以上漬けておく。金時にんじんは幅7mm、厚さ1mmの短冊状に切ってさっと茹で、大根同様、甘酢に漬ける。
2.干し柿は枝付きの部分を切り落として包丁で開いて種を除き1cm角に切る。秋ふきは葉を除いて茎の部分を塩もみ(塩は分量外)する。たっぷりの湯を沸かし、ふきを入れ3〜4分茹でて冷水に放す。冷めたら水をきり、上下から筋を取り(ひと目でわかるプロセス&テクニック参照)、4mm角×3cm長さに切って漬け出汁に20分以上漬けて味を含ませる。甘露しいたけは半分に切って2mm厚さに刻む。
3.揚げさつまいもを作る。さつまいもを櫛刃付のスライサーで1.5mm角×3cm長さで縦にスライスする。水に放してでんぷんを流し、ざるに上げて水気をきる。さつまいもを160〜170℃の揚げ油でカリッと揚げてクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
4.カリフラワーはそれぞれを3mm角ほどに刻んでざるに入れ、そのまま沸いた湯(紫カリフラワーは酢を入れた湯)に入れる。食感が残るようにさっと茹でて水に放さずにざるに上げる。熱いうちに薄く塩(分量外)をふる。カリフラワーの花蕾(からい)のまわりについている小さな葉は柔らかく食べられるので同様に茹でておく。
5.干し柿とそれぞれ汁気をきった大根とにんじんの甘酢漬け、秋ふき、甘露しいたけをボウルに入れて混ぜ、半球の型に詰めて寄せるための出汁を流して固める。
6.型から外した煮こごりを器の真ん中に盛り、まわりにカリフラワーを敷く。カリフラワーの葉を横に添え、煮こごりの上に揚げたさつまいもをのせる。ごま酢クリームを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。