プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
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「なーんだ、今日はポテトチップス?」と思われた読者もいらっしゃるかもしれませんね。ポテトチップスでは食品会社にはとてもかないません(笑)。似ていますが、様々な季節“野”菜を“彩”りよく揚げて煎餅にしました。
ポテトチップスなどのいわゆるジャンクフードと呼ばれるものは、なぜ他の食べ物よりも人をやみつきにするのでしょう? やみつきになる食べ物にはラーメン、一部のファストフード、スイーツ類などがありますが、これらはすべて油と塩分、甘みが強く効いた刺激的な味が特徴です。人は甘み、塩分、旨み、油脂に対して、本能的においしさを感じます。なぜなら、これらは生命の維持のために必要な要素だからです。旨みは油脂に溶けやすく、この2つが一緒になると大変おいしく感じられ、途中でやめられなくなるのです。
大昔、厳しい環境の中で飢えと背中合わせで生きていた人類は、栄養価の高い食物を必死で見つけて食べられるときに食べられるだけ食べておく必要がありました。脂肪や糖質に対する本能的な反応は、そんな生き残り行動の名残といわれます。
この連載で毎回チェックしている「野菜料理をおいしくする7要素」を改めてご覧いただくと、先に述べてきた要素がすべて含まれていることに気づかれると思います。肉や魚に比べて野菜は旨みが弱いので、他の要素をバランスよく組み込むことで料理をおいしくするのです。7要素の中には食感も含まれていますが、食品会社はポテトチップスの満足度の高い歯ごたえを見つける研究に巨費を投じると言われるほど重要な要素です。外はカリッと、中はふわふわとろとろといったコントラストのある食感を“ヘテロ感”と言いますが(「
じゃがいもの蓑揚げ」、「
海老いも饅頭あられ揚げ」参照)、これを脳は刺激的で、快感と感じるらしいのです。
今回は6種類の野菜をそれぞれに食感も考慮して揚げます。わざわざ買う必要はありませんが、もし少しだけ残っている茶そばがあれば、これも松葉に見立てて揚げて添えるのもよいですね。ひやむぎの残りを使えば枯れ松葉に見え、侘びた風情になります。家庭で作れば塩分も少なめにできますし、アミノ酸も入っていません。冷蔵庫に半端に残った野菜も加えて、同じように揚げてもいいでしょう。
ジャンクフードは脳と胃袋を満足させますが、野菜せんべいは心も満たします。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「野彩せんべい」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・それぞれの素材ごとにスライスする厚みと揚げる温度を微調整する。
・煎餅にかける塩の量は素材の甘みや旨みを引き出す程度の量で十分。
・揚げてすぐに塩をかけると塩味が定着する。
・茶そばやひやむぎには、もともと塩分が含まれているので塩をかける必要はない。
「野彩せんべい」
【材料(2人分)】・くわい(大) 1個
・栗(大) 1個
・れんこん(中) 1cm
・さつまいも 1cm
・菊いも 1cm
・ぎんなん 6個
・茶そば 4本
・海苔 少々
・揚げ油 適量
・塩 適量
【作り方】1.くわいは芽の部分を切って外し、りんごのように丸く皮をむく。スライサーで2mm厚さにスライスして水に放して表面のでんぷんを流した後、乾いた布巾などで水分を除く。フライパンに揚げ油を入れて火にかけ、170℃になったらくわいを入れる。泡が小さくなるまで返しながら1分半〜2分揚げる。茶色がかったクリーム色になったら油から上げて、クッキングペーパーに広げ薄く塩をふる。塩は片面だけで十分。
2.栗は鬼皮と渋皮をむく(「
栗飯」参照)。スライサーで1mm弱の厚みにスライスする。これ以降の工程はくわいと同じ。
3.れんこん、菊いもは皮をむいて、さつまいもは洗って皮付きのままそれぞれ1mm厚さにスライスする。これ以降の工程はくわいと同じ。
4.ぎんなんは殻と薄皮をむいて140℃くらいの揚げ油で翡翠色になるように2分ほど揚げ、クッキングペーパーに広げて薄く塩をふる。
5.揚げ茶そばを作る。茶そばは2本1組にして真ん中をテープ状に切った海苔(1cm幅×5〜6cm長さ)で巻き、ぬらした布で端を湿らせ留める。留めた部分の真ん中を包丁で切ると2本の松葉になる。松葉の間に箸を差し入れ広げ、150〜160℃に熱した揚げ油で1分弱揚げたら、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。揚げ松葉の工程は「ひと目でわかるプロセス&テクニック」も参照。
6.揚げたくわい、栗、れんこん、菊いも、さつまいも、ぎんなんを器に盛り、揚げ松葉を散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗