プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> くわいの煮もの、揚げ煮
これから年末に向けて、おせちに使うくわいが出回り始めます。スーパーマーケットで見かけてもどう料理してよいかわからず手に取らない野菜の一つかもしれませんね。今日はそんなくわいの調理法を紹介します。くわいもごぼう(「
ごぼうの旨煮」)やれんこん(「
れんこんの丸揚げ」)同様、食用として栽培している国は限られており、原産地の中国と日本だけのようです。
くわいには青くわい、吹田くわい(大阪府吹田市で栽培される)、白くわい(中国の品種)の3種類がありますが、国内で流通しているもののほとんどが青くわいです。くわいは堅くて表面につやがあり、芽がぴんとしているものを選びます。芽が折れたり柔らかいものは鮮度がよくありません。
その名は鍬芋(くわいも)の略で、地上に出ている葉と茎が鍬に似ていることに由来し、「も」が取れて「くわい」に転化しました。一つの根にたくさんの子がつく様子が、子を慈しみ哺乳する母(姑)のように見えることから「慈姑」の字が当てられたとか。
おせち料理にも使われ、プロは写真のように松笠にむき、揚げ煮にして加えることもあります。大きな芽が出ることから「めでたい(芽出たい)」とされ、芽が伸びる姿が出世や向上を連想させ縁起ものとして扱われます。
くわいは加熱するとほくほくした食感になって独特のほろ苦さもあり、まさに大人の味です。苦みを赤ちゃんや子どもは嫌いますが、それは本能的な反応で、苦みが毒物である可能性を示唆するシグナルだからです。ところが、苦みは年齢を重ね繰り返し経験することによって、おいしく感じるようになります。ビール、コーヒー、ダークチョコレート、山菜、ぎんなんなどがその好例です。
苦みのある野菜は油を使って調理すると、苦みを感じにくくなり、甘みやこくが加わって奥深い味わいになります。山菜の天ぷら、「
ごぼうの旨煮」などもそうです。
今日は苦みを除くのではなく、上手に生かしたくわいの煮ものを紹介します。師走の忙しさに追われイライラしてツノが出るのではなく、芽が出て伸びる野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「くわいの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り 刺激
・くわいは煮くずれしにくいが、
炊き過ぎると芽の部分が取れることがあるので注意。
・肉質が緻密なので味を含みにくい。
濃いめの出汁を用いて炊き、含ませる時間も長めにする。
・「くわいの揚げ煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り 刺激
・
揚げ煮には、揚げてから炊く方法(「
冬瓜の揚げ煮」、「
賀茂なすの揚げ煮」、「
かぼちゃの揚げ煮」など)
と、炊いてから揚げる方法がある。くわいの場合は両方のやり方が可能だが、炊いてから揚げるときれいな焦げめがつきやすく、水分がとんで味が凝縮されるためおせち料理にも向く。
「くわいの煮もの(左)」
【材料(4人分)】・くわい 10個(150g)
・くちなしの色素が溶け出した水 500cc
くちなしの実6個、水500cc
・出汁(濃いめにひく) 500cc
・日本酒 大さじ1
・みりん 大さじ1と2/3
・塩 1g
・薄口醤油 小さじ2
・オリーブ油 小さじ2
【作り方】1.くわいは座りがよくなるように底を平らに切り落とす。芽を折らないように注意しつつ皮をむく。おせち料理に使う場合は底の方から芽に向かって、縁起よく6回か8回でむく。芽は長いままだと炊いている途中で折れやすく、盛りにくいので、先を切って好みの長さに揃える。
2.くわいを黄色く色づけする。鍋にくちなしの色素が溶け出した水を注ぎ、くわいを入れて15分ほど茹でて火からおろす。そのまま2時間ほどおいて冷ます。色づけについては「
栗の蜜煮」も参照。
3.色のついたくわいを水に放して10分ほどさらし、くちなしの匂いを抜く。くわいは緻密な肉質なのでさらしても水っぽくならない。くわいをざるに上げて水気をきって鍋に入れる。出汁を注いで火にかけ、調味料を加え12〜13分ほど炊いたらオリーブ油を入れる。さらに5分炊いたら火からおろし、そのまま冷まして1時間以上味を含ませる。
「くわいの揚げ煮(右)」
【材料(4人分)】・くわい 10個(150g)
・米のとぎ汁 適量
・出汁(濃いめにひく) 500cc
・日本酒 大さじ1
・みりん 大さじ1と2/3
・塩 1g
・薄口醤油 小さじ2
・揚げ油 適量
【作り方】1.くわいは「くわいの煮もの」と同じようにむく。
2.鍋にくわいを入れ米のとぎ汁を注いで、15分ほど茹でる。茹で方については「
小いもの含め煮」も参照。
3.茹で上がったら、水に放して流水の中で表面のぬめりを洗い流してざるに上げる。鍋に水分を除いたくわいを入れ、出汁を注いで火にかける。調味料を加えて15分ほど炊いたら火からおろしてそのまま冷まし1時間以上味を含ませる。
4.くわいの汁気をきり、180℃に熱した揚げ油できつね色になるまで揚げる。器に盛り、煮汁を少量かけて供する。おせち料理に入れる場合は揚げた後、キッチンペーパーで油分を除いて冷まして盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗