漆器の楽しみ方はさまざまですが、漆の蓋付きの飯椀でいただくご飯のおいしさは格別です。「手になじみ、箸が当たっても柔らか。蓋をすることでご飯が蒸らされ、炊きたてのおいしさがいただく直前まで保たれます。お茶漬けなどにしても口縁の口当たりが優しいです」と、料理研究家の後藤加寿子さんは話します。
2月の献立とともに。やわらかな光沢とあたたかな色が食卓に映える。漆器はもちろん、染付や色絵、粉引などどんな和食器にもなじむ。
後藤さんとともに、今回ご紹介する本誌オリジナルの飯椀の製作に携わってくださったのは、秋田県の「川連(かわつら)漆器」の皆さんです。
川連漆器では“日常の器”として普段使いでき、かつ美しく、高齢のかたから子どもまですべての人が心地よく使える「たなごころ」という食器シリーズを展開しています。このデザインをもとに、家庭料理の伝統を伝え継ぐ後藤さんにアイディアをご提案いただき、毎日使いたくなる蓋付きの飯椀が完成しました。
ご飯をよそうのはもちろん、炊き合わせやおひたしなどの小鉢にも、また蓋は裏返して茶懐石のように小皿としても使えます。やや茶色を帯びた落ち着いた朱色と光沢を抑えたしっとりとした質感は、白磁などの洋食器にも合わせやすく、和洋のおかずが並ぶ家庭の食卓に重宝します。底が厚いつくりで、何度も漆を塗り重ねているため丈夫で、日常づかいに活躍してくれる器です。
一緒に考えてくださったかた
後藤加寿子(ごとう・かずこ)さん
茶道武者小路千家13世家元有隣斎の長女として京都で生まれ育つ。茶懐石料理を礎とした家庭料理の第一人者であった母、千 澄子さんの影響を受け、料理の道へ。近年は、和食の伝統を次世代に受け継ぐ食育に注力する。
写真/本誌・坂本正行