甲状腺ホルモン薬で治療。定期的な受診を続ける
甲状腺機能低下症の治療法は、1日1回甲状腺ホルモンを服用することです。
「薬の服用以外の治療法はありませんが、体に足りない物質を外から補うだけで、薬の服用を習慣にすれば機能が正常の人と同じようにコントロールできるため、特に不利なことはありませんと患者さんには説明しています」。
薬は少量から開始し、数週間ごとに症状と検査値、副作用を検討しながら量を調節していきます。
治療を開始するかどうかは、検査結果や症状で判断されます。
甲状腺の腫れが目立ち、見た目が気になる場合、脂質異常症がある場合(甲状腺ホルモンが少ないとコレステロールが高くなる傾向があります)などでは機能低下が軽度でも治療対象になります。
「虚血性心疾患を持つ高齢者は薬を高用量から開始すると心房細動や心筋梗塞などを誘発する危険性があるので、慎重に投薬します」。
超高齢になってから発見された場合には治療しないこともあるそうです。
甲状腺機能低下症には、機能低下が明確で診断が可能な「顕性」タイプと、遊離T3と遊離T4の値は正常でTSHだけが高い「潜在性」タイプがあります。
潜在性甲状腺機能低下症ではTSHが10μU/mlを超えたら治療するというのが一つの目安になっています(妊娠中の女性は早めに治療を開始します)。
機能低下や症状は、治療しなければ、ゆっくり進行します。もし長期間病気に気づかず治療を受けなかった場合、あるいは治療を長く中断した場合に症状が悪化します。
そして、感染症や低温の環境、ある種の薬などをきっかけに体調をくずし、昏睡にまで陥ることもあります。
「全身が腫れているような状態で、体温、血圧、脈拍が下がり、ショック状態になります。救急車ですぐに病院に行き、全身管理と甲状腺ホルモンの補充を受ける必要があります」。
ですから、薬を飲み続けることは重要です。「もしも症状がなかなかよくならない場合、ほかの病気の可能性もあるため、治療開始後は定期的な受診が欠かせません。主治医とは長いおつきあいをしていただくことが大切です」。
一過性の甲状腺機能低下症にも注意が必要
亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎のような急性炎症の回復期には一時的に甲状腺の機能が下がることがあります(一過性の甲状腺機能低下症)。しかし、この状態はいずれ回復するので、治療の必要はありません。
「1か月ほど前に動悸、頻脈などの甲状腺機能亢進の症状があったことを問診で聞き出したり、検査の数値の割に症状が軽くみえたりしたときに、これは一過性の可能性があると推察することがあります」(村上先生)。
ある種の不整脈の薬や躁状態の薬によって甲状腺機能が低下することがあり、その場合は別の薬に変えることで回復します。
いずれにしても1か月か1か月半後に診察や検査を行い、一過性かどうかをみます。
甲状腺機能低下症の治療法
●甲状腺ホルモン薬の服用※低用量から開始し、検査値や症状などを勘案して用量を調節する。服用は1日1回。
甲状腺機能低下症の診断・治療が得意な専門医
●日本甲状腺学会 認定専門医(2021年10月末現在、813名)
URL:
http://www.japanthyroid.jp/public/specialist/map.html イラスト/にれいさちこ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。