「辻が花」の精緻な技を知る【1】
辻が花は、描いた文様の形に合わせて絞り、色ごとに繰り返し染め分ける複雑な染色技法。江戸時代前期に友禅染めの技法が作り出されるまで、文様を染め出す唯一の技法として人気でした。
戦国の武将の胴服や小袖としても好まれ、上杉謙信や徳川家康など権力者たちの衣装として、華やかに彩られた遺品が現代に伝えられています。
現代の辻が花染めの第一人者である小倉さんの染色家としてのスタートは、17歳のとき。日展会員の染色家・寺石正作氏に図案の基礎を習い、日本画も学びながら父・建亮のもとで修業を始めました。
29歳で日本伝統工芸展に初入選します。30代になると、徳川家康の小袖「亀甲重ね模様辻が花」の復元をはじめ、数々の染織品の復元に携わるようになります。創作と復元の経験から現代に生きる辻が花を構想し続け、幅広い知識と染色技術で高い評価を受けています。
小倉さんは、すべての文様を絞って地色を浸け染め、次に各色の葉をそれぞれ絞って染めていきます。最後に白く染め残した花や葉に、花弁一枚ごと、葉脈の一本一本を細密な墨(カチン)の線で描き込み、隈取りを入れて。
大胆な構図の中に、得もいわれぬ程の繊細さが息づく世界──。一枚のきものが染め上がるまでの工程をじっと見入る常盤さん。圧倒的な時間と人の手がかかっていることを改めて知り、美を生み出すエネルギーの強さを感じたのです。