歌舞伎界の若き獅子たち 第4回(全5回) 『風姿花伝』で世阿弥が「時分の花」という言葉で表わしたように若手歌舞伎俳優の彼らには、今、この瞬間だからこそ放つ美しさと輝きがある。彼らはそれぞれの個性が光る装いとともに、そのパッションと表現力、そして抱き続けている歌舞伎に対する深い愛を語ってくれた。
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コート82万5000円/フェンディ(フェンディ ジャパン)中村児太郎(なかむら・こたろう)1993年12月23日生まれ。父は9代目中村福助。2000年歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』の所化、『菊晴勢若駒』の春駒の童で、6代目中村児太郎を名乗り、初舞台。2018年には『壇浦兜軍記』の琴、胡弓、三味線を演奏する阿古屋という難役を史上最年少である24歳で初役を勤めた。古典の難役に自ら志願してチャンスをつかんだ挑戦者
饒舌で努力家。取材相手はもちろん、先輩や仲間、後輩にも、古典作品への想いや〝熱い歌舞伎愛〟を止めどもなく語り続ける。
「10代の頃の僕があのまま福助を襲名していたら、何の苦労もないままだったでしょう。女方の大役といわれる揚巻、八ツ橋、政岡を演じる“怖さ”を知らずに、自分にはできるって思い込んでいました。父が病気になってそれを乗り越えたからこそ、見えたことや気づきがたくさんあったと思います。苦労知らずのまま襲名をしなくて本当によかったです」
ブルゾン34万1000円 シャツ11万円 ネクタイ2万4000円 パンツ17万500円 スニーカー13万2000円/すべてディオール(クリスチャン ディオール)史上最年少で阿古屋を演じるという快挙を遂げたが、その後も自分の演技を動画で記録して日々修正し、さらなる高みを目指す。未経験の女方の大役の台詞はすでに暗唱ずみで、準備万端。その原動力はどこからくるのか。
「歌舞伎役者の家系に生まれたのに、古典を守れなかったら歌舞伎役者じゃない。僕はそう思って取り組んでいます。初役で『妹背山婦女庭訓』のお三輪を演じたときに、かなりの人数のお客さまが泣いていたのを目にして、古典も捨てたものじゃないと確信しました。どうやれば人に伝わるかを勉強し続けるべきだと思い、今はそれを実践しています」
息抜きの映画鑑賞も好んで古典作品を選ぶ。ヴィヴィアン・リーや杉村春子、花柳章太郎などの魅力に触れるときが至福の時間。すべてが彼の演技へとつながっていくのだ。
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撮影/秦 淳司〈Cyaan〉 スタイリング/馬場郁雄 ヘア&メイク/AKANE 構成・文/山下シオン
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。