がんの取り残しが少ないほど予後がよく、化学療法も効果的
『患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン』
第2版 日本婦人科腫瘍学会編 2700円/金原出版
治療ガイドラインによると、卵巣がんを疑った場合、どの進行期でもまず手術が考慮されます。それは骨盤内の深い場所に卵巣があるため、腹部の触診や内診、画像検査では、がんの確定診断および広がり方を正確に把握することが難しいからです。手術中に行われる術中迅速病理検査で悪性と判定された場合、両側の卵巣、子宮、腹膜の一部である大網を切除するのが標準です。
「卵巣がんが転移しやすいリンパ節の切除も行われていますが、リンパ節を切除しない場合も予後に変わりがないという海外の臨床試験結果が出ており、改訂の際に議論になるでしょう」。
一方、がんの取り残しが少なければ少ないほど予後がよく、術後の化学療法もより効きやすくなると考えられています。
「つまり、執刀医をはじめとする手術チームの腕前が重要ということです。その目安は手術件数が多い施設ということになりますが、米国婦人科腫瘍学学会ではいくつかのエビデンスをもとに卵巣がん治療のセンター化(患者を集めること)の有用性について意見を出しています」。
また、抗がん剤がよく効く例があるため、術後に化学療法のTC療法を行うのが標準ですが、日本の臨床試験ではTC療法よりもdose-denseTC療法(パクリタキセル毎週投与法)のほうが効果が高いという報告があり、今後は標準治療となる可能性もあります。
おなかの中に高濃度の抗がん剤を直接注入するIP療法は、従来の点滴より効果が高かったことから標準治療となってはいるものの、日本ではそれほど普及していません。
「化学療法でがんを小さくしてから手術を行う術前化学療法について、日本では手術による完全摘出が難しい場合のみ行われていますが、米国ではステージⅡ期以上は患者と相談のうえ決定することを推奨しており、次回改訂の際、議論になると思います。卵巣がんは進行した状態で発見されることが多く、生存期間を延ばすための新しい治療法を開発していくことが不可欠です」と三上さんは話しています。
Information
東海大学医学部付属病院
神奈川県伊勢原市下糟屋143
取材・文/渡辺千鶴 撮影/八田政玄
「家庭画報」2018年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。