宇宙旅行の扉はもう開かれている
クルードラゴンを生んだスペースX社は、2002年に創業したアメリカの宇宙産業屈指のベンチャー企業です。「テスラ」最高経営責任者のイーロン・マスク氏率いる同企業の特徴を端的に表すと“驚異の一貫生産体制”になります。
往年のスペースシャトルの場合、全米各地のメーカーから持ち込まれた多種多様な部品をパッチワークのように組み立てて機体をつくり上げていましたが、スペースX社は機体の設計やデザイン、ソフトウェア開発や実際の部品製造、機体の組み立て、そして打ち上げとその後の運用のすべてを自社でまかなっています。同社は、高精度な3Dプリンターをはじめとする最新技術を用いてこうした製造部品の多くを内製化し、優れた機動性とコスト削減の両立を実現しているのです。
そんなスペースX社が最初にロケット(貨物用)を打ち上げたのは、創業から4年後の2006年のことでした。その1号機はエンジントラブルで海に落下。続く2号機も制御不能に。2008年に行われた3度目の打ち上げも失敗しましたが、同年中に実施した4度目の挑戦で成功し、ロケットを軌道に乗せた初の民間企業という栄誉を得ました。
そして、2010年には無人貨物船の試験飛行にも成功します。スペースX社は、貨物分野で場数を踏み、起きた問題を解決するために新たな技術開発を行うことで、有人飛行の領域へと道を自ら切り開いてきたのです。ここに失敗から学ぶ“スペースX魂”があると私は受け止めています。
今、宇宙飛行への関心が世界的に高まりを見せています。これからは確実に、誰もが宇宙に行ける時代がやってくるはずです。
本人の資質や経験、高邁な理想を掲げなくても行ける場所に、宇宙がなってしまったのです。今は1回25万ドル(約2800万円)ともいわれる料金も、宇宙観光ビジネスが民間主導で進むかぎり、企業競争が起き、必ず価格破壊が起きるでしょう。近い将来、宇宙飛行はプロの宇宙飛行士や一部の限られた人のものではなくなります。宇宙への扉は、もう開かれているのです。
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取材・文/冨部志保子 取材協力/JAXA NASA 参照文献/『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術』(世界文化社刊)
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。