“東京2020メダリスト”がまとう正月きもの 第4回(全5回) 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で、世界中を沸かせたメダリストたちが、競技ウェアから晴れやかなきものに着替えてご登場。栄冠に輝くまでの道程や思い、周囲への感謝、これからの夢を語ります。
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野口啓代さん
野口啓代(のぐち・あきよ)1989年茨城県生まれ。クライミングを始めてわずか1年の小学6年生時に全日本ユース制覇。2008年に日本人として初優勝したボルダリングW杯では通算21勝を数える。09、10、14、15年の4度、ボルダリングW杯年間総合優勝の栄誉に輝き、競技人生最後の舞台となった東京2020オリンピックでは銅メダルを獲得。五色の熨斗目(のしめ)文様の振袖は染織作家・浅岡明美さんの作品。鎧(よろい)の威(おどし)と四季の花の丸文様、蝶が織り出された黒地の錦織り袋帯が全体の印象をきりりと引き締めています。
振袖、帯/豊中・織元 帯揚げ、伊達衿/和小物さくら 帯締め/道明 髪飾り/かづら清老舗 ヘア&メイク/Eita〈Iris〉 着付け/小田桐はるみ 撮影協力/ホールド屋「一手でも多く。最後の舞台も自分らしい粘り強い登りができました」
スポーツクライミングが初めてオリンピックの正式競技となった東京2020大会。今大会が現役最後の舞台と公言していたクライミング界の女王、野口啓代さんは、決勝の最終3種目のリード(6分の制限時間内に高さ15メートル以上の壁をどこまで登れるかを競う種目)を前に「一手でも多く、粘り強く登ろう」と心に誓いました。
「2種目のボルダリングを終えた時点でかなり厳しい状況にあったのですが、現役最後の一本は自分らしく諦めない登りをしよう、やってきたことをすべて発揮しようと決めて力を振り絞りました」。
「最後まで諦めない姿勢を貫けました」
結果は逆転の銅メダル。決まった瞬間はさまざまな感情が溢れたといいます。
「すべてが終わった解放感、メダルを取れた嬉しさ、安心感。目指してきた金メダルに届かなかった悔しさもありました。でも、一緒に頑張ってきたコーチやスタッフがすごく喜んでくれたので、最後まで諦めないで本当によかったです」。
自宅にクライミングウォールを造って応援してくれたお父さまからも、ねぎらいの言葉がありました。
「父は『長い間お疲れさま』といった後、『最初と同じ色のメダルだね』と嬉しそうにいってくれました。私が16歳で初めて世界大会に出たときに取ったのが銅メダルだったんです。ずっと見てきてくれた親だからこその言葉だなと思いましたね」。
感慨深げに話す野口さんですが、引退後の今も、一番の楽しみはクライミング。
「最近はよく岩場を登っています。指の皮が硬くなって人工壁が登りにくくなるため、この数年は控えていたのですが、とても楽しいです」。
生き生きとした表情からクライミングへの尽きない情熱が伝わる野口さん。そのクライマー人生は第2章が始まったばかりです。
撮影/鍋島徳恭 きものコーディネート/相澤慶子 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。