“東京2020メダリスト”がまとう正月きもの 最終回(全5回) 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で、世界中を沸かせたメダリストたちが、競技ウェアから晴れやかなきものに着替えてご登場。栄冠に輝くまでの道程や思い、周囲への感謝、これからの夢を語ります。
前回の記事はこちら>> 自転車(個人ロードタイムトライアルC1-3 個人ロードレースC1-3〈運動機能障がい〉)
杉浦佳子さん
杉浦佳子(すぎうら・けいこ)1970年静岡県生まれ。2016年に自転車の大会で転倒し、高次脳機能障害と右半身まひの障がいが残る。懸命にリハビリを重ね、17年にパラ自転車競技を開始。同年の世界選手権ロードタイムトライアル優勝、18年世界選手権ロードレース優勝など輝かしい戦歴を持つ。東京2020パラリンピックではロード2種目で優勝、日本選手史上最年長金メダリストに。浅葱色が爽やかな訪問着。裾に銀鼠色のぼかしを入れて流水に枝垂れ柳という春の情景を映しています。金綴錦織り袋帯も流水柄で。
きもの/銀座もとじ 和染 帯/桝屋髙尾 帯揚げ、伊達衿/和小物さくら 帯締め/道明 髪飾り/かづら清老舗 履物/銀座ぜん屋本店 ヘア&メイク/Eita〈Iris〉 着付け/小田桐はるみ「不安だからこそ、徹底的に練習を重ねて一番になることができました」
東京2020パラリンピックの自転車競技で2つの金メダルに輝いた杉浦佳子さんは明るい笑顔が印象的。ところが、ご本人は「実はとてもネガティブで」と苦笑します。
「ライバルが強くなっているんじゃないか、勝てないんじゃないか。でも、そういう不安が常にあったから、毎日きつい練習を続けられました。ネガティブだから一番になれたといえるかもしれません」。
「頑張れたのはネガティブだから」
杉浦さんは「金メダリストになって世界が一変しました」と話します。
「日本の社会では女性は年を取ると価値が下がるようなイメージがありますよね。でも、私は薬剤師をしていたとき、40代、50代の女性の先輩たちが本当に素敵で、患者さんに大人気なのを見ていたので、年を取ることに抵抗がなく、むしろ楽しみだったんです。ところが、競技者になったら、『若くて可愛くないと取材もあまりこないし、スポンサーもつきにくい』といった声を多く聞くようになり、自分は競技を続けていいのかとずいぶん悩みました。それで新聞記事に年齢を書かれるのもいやだったのですが、今回『日本人最年長金メダリスト』といわれて、びっくりしました。自分にとってネガティブワードだった年齢で称えられ、最年長記録の更新が目標になったのですから」。
その言葉どおり、2024年パリパラリンピックでも金メダルを目指すという杉浦さん。
「家族も応援に行くと今からいってくれているので、頑張らないとと思っています。もちろん目標は金メダルですが、結果はどうであれ、自分の限界まではやってみるつもり。コーチにも、まだまだ伸びしろがあるといわれていますし」。
澄んだ瞳で力強くいいきる杉浦さん。日本中にパワーをくれる存在です。
撮影/鍋島徳恭 きものコーディネート/相澤慶子 取材・文/清水千佳子
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。