3拍子の音楽を聞いていると、2拍子や4拍子よりも、なぜか心が休まる。
それは、ひとの鼓動が3拍子だからかもしれない。
母の胎内にいる頃から、この世を去る日まで、ぼくらは心臓のリズムを刻んでいる。
それは「ト・ク・トゥ、ト・ク・トゥ」の3拍子だという。弁膜の開くときの音があいだに入るからだ。
そういえば、バッハが不眠症に悩む伯爵のために書いたともいわれる「ゴルトベルク変奏曲」の出だしのアリアも、3拍子だ。
アフリカなどのポリリズムにも必ず3拍子が重ねられている。
ひとがこの世にある限り、からだの奥底には、ワルツのリズムが脈打っているようだ。
しかし、命には始まりがあり、必ず、終わりがある。
3拍子には、死を免れない命のかなしみ(愛しみ、哀しみ)が宿っている。
いくら明るい曲を聴いても、どこかせつない気分になるゆえんは、そこにあるのかもしれない。
いつもは鼓動のリズムに気づくことはない。しんと静まりかえったひととき、ぼくらは、その音に気づくのだ。
撮影/本誌・伏見早織 編集協力/三宅 暁(編輯舎)
『家庭画報』2022年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。