プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> りんごとかんぴょうの蜜煮、かんぴょうカリカリ焼き
今日からお休みの方も多いと思います。おせち料理、年越しそばの準備はお済みですか? 六雁は今、おせちの仕込みの真っ最中ですが、読者の皆さまもきっと、この連載で学んだ野菜おせちの仕込みでお忙しいだろうと期待しております。せめて1品だけでも作っていただければと祈っております(笑)。
おせち料理は準備万端ということで、今日は年越しそばについてお話ししてみようと思います。えっ? 今回はそばではなく、かんぴょうの料理じゃないのかって。慌てない、慌てない(笑)。
年越しそばの起源には諸説あります。そばは細く長いので寿命を延ばし、良い運を長続きさせるという「長寿、無病息災、家運長命」の験担ぎで食べられるようになったとするもの。かつて金銀の細工職人は作業中に飛散した金粉、金箔などをそば粉の団子を使って集めていたことから、金を集める、金運を呼ぶ、「金運向上」という意味合いで食べられるようになったというものなどがあります。
かんぴょうも年越しそばの起源に負けてはいません。かんぴょうはゆうがお(瓢箪と近縁の種)の実を専用の機械にかけて長く長くむきます。その長さはそばどころではありません。また、かんぴょう(干瓢)の「瓢」が3つ揃えば三瓢子(三拍子)、6つ揃えば六瓢(無病)と縁起がよいですね。かんぴょうには“ん(運)”の文字が含まれ、金運を呼ぶだけではありません。草履取りから天下人へ大出世した豊臣秀吉の馬印(武将のそばに立てた目印)は千成(せんなり)瓢箪です。
無理やりなこじつけはここまでにして(笑)、「
煮かんぴょうの海苔巻き」や「
新かんぴょうの酒肴彩々」にも劣らない、かんぴょう料理「りんごとかんぴょうの蜜煮」をご紹介します。りんごのコンフィチュールのようでもあり、コンフィチュールにはない歯ごたえがあり、食べた方は老若男女を問わず絶賛してくださいます。簡単にできますので、お正月休みの間にでもぜひお試しください。
実は年越しそばの起源には他にも説があります。「災厄との縁切り」です。そばは切れやすいことから、それを食べて旧年の労苦や災厄、借金を断ち切って新しい年を迎えることを願ったというものです。
この半年間つまらない親父ギャグを連発して、お耳障りだったと思います。読者の皆さまから縁切りされたくない、そんな思いで、そばではなく、なかなか切れにくいかんぴょうにしました(笑)。これからも長くお付き合いいただき、野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「りんごとかんぴょうの蜜煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・りんごはかんぴょうと一緒に最初から炊くと煮くずれてしまうので、炊き上がる5分前に加える。
・レモンスライスを加えて炊くが、レモンによっては皮の苦みが強く出るものがあるので注意が必要。
・「かんぴょうカリカリ焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・天板に金網を敷いた上にかんぴょうを広げて乾燥させたほうが、よりカリッとした食感になる。
「りんごとかんぴょうの蜜煮」(右)
【材料(作りやすい分量)】・かんぴょう(もどしたもの) 150g
・りんご(紅玉) 60〜70g
・昆布出汁 100cc
・白ワイン 100cc
・りんごジュース(果汁100%) 100cc
・砂糖 大さじ1〜1と1/2
・薄口醤油 小さじ2と1/2
・レモンスライス 1/2個分
・レーズン 15〜20g
【作り方】1.かんぴょうは「
煮かんぴょうの海苔巻き」を参照してもどし、1.5cm幅×3cm長さに切る。りんごは皮をむいて2cm角×8mm厚さに切る。
2.鍋にかんぴょうを入れ、りんごとレーズン以外のすべての材料と調味料を加えて火にかける。
3.沸いたら弱火にして10分炊く。りんごを加えて、さらに5分炊いたらレーズンを加え火からおろす。冷めたら冷蔵庫で保存する。
「かんぴょうカリカリ焼き」(左)
【材料(作りやすい分量)】・かんぴょう(もどしたもの) 150g
・りんごジュース(果汁100%) 500cc
・砂糖 小さじ2
・薄口醤油 小さじ2
【作り方】1.かんぴょうは「
煮かんぴょうの海苔巻き」を参照してもどし、2cm幅×12cm長さ程度に切る。
2.鍋にかんぴょうを入れ、りんごジュースと調味料を加えて火にかける。
3.沸いたら火を弱め、煮汁がほとんどなくなるまで、焦がさないように煮つめていく。
4.かんぴょうをクッキングペーパーの上に広げて上からもクッキングペーパーをかぶせ、軽く押して汁気を除く。天板に金網を敷いた上にかんぴょうを広げ伸ばして並べ、100℃に予熱したオーブンに50分ほど入れてカリカリに乾燥させる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗