プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 大根餅
お正月といえばお餅。皆さま、存分に召し上がりましたか? 今日は大根餅を紹介します。和食で大根餅といえば、大根おろしと醤油を混ぜて餅にからめた、大根の辛みが刺激的な「からみ餅」のことを思われるかもしれませんね。からみ餅や磯辺餅、きなこ餅、どれもおいしいのですが、おなかがいっぱいになってしまいます。今回の大根餅は軽く食べられ、胃もたれもしません。
大根餅は飲茶の点心として人気が高く、日本でも広く食されています。元々は香港が発祥といわれ、旧正月や年越しに家族で食べる縁起物の料理の一つでした。大根を粗くおろして片栗粉などと一緒にこね、細かく刻んだ海老やかに、野菜などを加えて蒸したものを焼きます。それぞれの家庭や地方によって加える食材や作り方に違いがあり、日本のおせち料理やお雑煮と同じですね。
大根餅が郷土料理の一つになっている地域もあり、長崎ではしいたけや揚げかまぼこ、茹で干し大根、ごまなどを加えるようです。福島では大根やにんじんをせん切りにして炒めた郷土料理「ひき菜炒り」に凍み豆腐や餅を入れてお正月に食べます。
大根餅を作る際は大根を鬼おろしでおろすことがポイントです。粗くおろすことで水分が出にくくなり、栄養や食物繊維が損なわれず、シャキシャキ食感を味わうことができます。歯がギザギザで鬼の歯のような形をしているので鬼おろしと呼ばれ、元々は竹製ですがステンレスやプラスチック製のものもあります。
今回は他の具材を加えず大根のみで作り、カリッと揚げて旨みを増します。酢醤油や辛子醤油で食べてもおいしいですし、お好みでいろいろなつけ汁を工夫されるのもよいでしょう。
おろした大根の汁もすべて使いますので、大根に含まれる消化酵素が胸やけや胃もたれを防ぎます。大根の別称は「清白(すずしろ)」。白い大根でまじりっけのない白い大根餅、なんと清々(すがすが)しい。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「大根餅」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り 刺激
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大根は生食できる素材なので、れんこんを使った蓮餅(「
蓮餅の煮もの椀」)の場合と違い、電子レンジで
長時間加熱する必要はない。加熱し過ぎると餅の中の大根の食感がなくなる。
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2〜3日間、日持ちするので多めに仕込んだほうがおいしくできる。作り置きする場合は、生地を電子レンジで加熱してから冷蔵庫で保存する。
・低温で揚げると油ぎれが悪く、表面もカリッとならない。
185℃くらいできつね色に揚げる。
・大根餅は風味が乏しいので
柚子の皮をすりおろしてふってもよい。
一味唐辛子の刺激も合う。
「大根餅」
【材料(4人分)】・大根 100g
・薄力粉 20g
・片栗粉 20g
・塩 1g
・揚げ油 適量
・酢醤油(または辛子醤油) 適量
・たれ 適量
濃口醤油大さじ1:みりん大さじ1:日本酒大さじ1:砂糖大さじ1の割合
【作り方】1.大根は皮をむいて鬼おろしで粗くおろして汁ごとボウルに入れる。薄力粉と片栗粉、塩を加えてよく混ぜる。
2.耐熱皿に1を入れて1.5cm厚さくらいに平たくのばしラップする。500Wの電子レンジで3分30秒加熱し、生地をゴムへらで混ぜて均一にする。
3.フライパンに揚げ油を入れ185℃に熱する。濡らした手で大根餅の生地を食べやすい大きさに成形する。揚げ油に入れて両面がカリッときつね色になるまで1分30秒ほど揚げる。そのままでも、酢醤油や辛子醤油をつけてもよい。別のフライパンにたれの材料をすべて入れて火にかけ、沸いたら揚げたての大根餅を入れてたれをからめてもおいしい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗