二人の人間国宝の新たなる挑戦 第2回(全3回)「君の夢は何だ」。そんな問いかけをきっかけに始まった、人間国宝同士のコラボレーション。重要無形文化財「羅(ら)」「経錦(たてにしき)」保持者の北村武資と、「友禅」保持者の森口邦彦。ともに染織文化を代表する二人の作家は、何を思い、どんなきものを制作したのか――。前人未到の偉業を、ここにお届けします。
前回の記事はこちら>> 不世出の織り人 北村武資さん
羅を織る北村さん。規則正しい生活の中で精緻な織りが生まれます。織り続けるうちに「機の中に血液が流れ、機と一体になっていく自分」を感じるのだそう。「織りは闘い。織りながら、次が開けてくる」と。北村武資さんは1995年に「羅」の技法、2000年に「経錦」の技法で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された、不世出の織物作家です。
1935年に京都に生まれ、15歳で西陣の機屋に就職して以来70年、織り一筋に歩んできました。数多くの機屋を腕一本で渡り歩きながら、織技や知識の習得に努める日々の中で、59年、龍村平蔵氏の展覧会を見て感動。その足で龍村美術織物を訪ね、織りへの情熱を熱く語り、入社することになります。転機となった龍村美術織物での日々を「質の高い織りを創作する姿勢に多くを学んだ」と北村さんは振り返ります。
もう一つの大きな転機は63年。友禅作家・森口華弘氏(67年に重要無形文化財保持者に認定・森口邦彦さんの父)の主宰する染織研究会に参加し、作家たちの切磋琢磨する姿勢に大いに刺激を受けます。そして65年に日本伝統工芸染織展に初出品し、日本工芸会会長賞を受賞。以後、日本工芸会の展覧会に出品し続け、現在に至るまで第一線で創作活動を続けています。
羅を織る機の、振綜(ふるえ)と呼ばれる経糸を捩らせる装置。史上初めての2技法での人間国宝認定の裏側には、織りの技術をひたすら高めていく、北村さんのストイックなまでの姿勢があります。難易度の高い伝統技法の再現だけでなく、そこに独自の創作を加えてオリジナルの織りを生み出したという偉業も、長年の修練の賜物です。
友禅の最高峰 森口邦彦さん
蒔糊を施す森口さん。刷毛で湿らせた生地に、微細に作った糊の粒子を落としていきます。2007年に重要無形文化財「友禅」保持者に認定された森口邦彦さんは、グラフィックデザインの思考を伝統的な友禅の世界に展開し、世界的に活躍する染色作家です。1941年、京都に生まれ、父は染色作家・森口華弘。細かく砕いた糊の小片を刷毛で濡らした生地に蒔いて防染する「蒔糊」を考案し、多くの後進を導いた重鎮でした。
糊が重なったところをピンセットで取り除いて調節。白い三角は地色になり、糊で伏せた黄色く見える部分と蒔き糊の部分が、地色を染めることで生地の白に染め残ります。森口さんは京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)日本画科を卒業後、63年に渡仏し、3年間国立高等装飾美術学校で学びます。卒業後の進路を悩んでいたところ、友人の近代芸術家バルテュスに、日本で父の工房に入ることをすすめられ、66年に帰国します。
翌67年、友禅きもの「光」で日本伝統工芸展に初出品初入選。蒔糊の技法と友禅を使った幾何学的抽象文様のそれは、染織界に衝撃を与えました。以降、きものにとどまらない幅広い創作活動は国境を超え、21年フランスのレジオン・ドヌール勲章コマンドゥール章を受章するに至ります。
抽象的で端正な図形が連なるデザインは、着る人の動きや姿を美しく見せるため。一つのデザインが完成するまでに、納得がいくまで何度も描く緻密さは、森口さんの仕事の根幹を成すものです。
森口さんの作品はメトロポリタン美術館をはじめ世界各国の美術館に収められ、世界が認める芸術家であることを如実に物語ります。
下のフォトギャラリーから詳しくご覧いただけます>> 「二大巨匠展 北村武資×森口邦彦」
特別トーク会のお知らせ
2月19日(土)~27日(日)まで、銀座もとじ 和織・和染(東京都中央区銀座4-8-12)にて、初の二人展を開催します。今回ご紹介した共同作品をはじめ、二人の作品の数々をご覧いただけます。また、これを記念し、下記日程で特別トーク会を行います。多摩美術大学教授・外舘和子先生とともに、二人のものづくりの神髄に迫ります。ふるってご応募ください。
日時:2022年2月26日(土)11時~12時
会場:銀座フェニックスプラザ(東京都中央区銀座3-9-11 紙パルプ会館内)
参加費:無料
募集人数:先着30名さま
応募方法:銀座もとじ 和織・和染に直接お電話にてお申し込みください。
申し込み電話番号:03(3538)7878
受付期間:~2022年1月31日(月)
※ご紹介した内容は諸事情により変更されることがあります。
〔特集〕二人の人間国宝の新たなる挑戦
01
二人の人間国宝の新たなる挑戦02
不世出の織り人と友禅の最高峰。二人の作品が生まれる場所へ
この特集の掲載号
『家庭画報』2022年2月号
撮影/森山雅智 きものコーディネート・取材・文/相澤慶子
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。