互いの仕事に心を寄せるということ
その道のりはもちろん、簡単なものではありませんでした。プロジェクトが決まったのは約2年前。コロナ禍でさまざまな活動が制限される中、時だけが流れていきます。
最初に制作を手がけたのは、北村さんです。「どうすればこの後の森口さんの友禅が映える生地になるのか」と、来る日も来る日も悩み、考え抜いたといいます。
そうして仕上がった北村さんの織り生地を見た森口さんは同様に、「この美しい生地を汚してはいけない。織りが引き立つような友禅にしなくては」と感じたそうです。
衣桁に生地を掛けて眺め続けること約3週間、大切なのは引き算の美学だという結論に達します。
それぞれが一人の作家として孤独なまでに自身の創作活動に向き合う中で根底にあったのは、“相手の仕事に思いを馳せる”という思いやりの心でした。かつて、これほどまでに互いへの尊敬の念と親愛の情が込められたきものがあったでしょうか――。