心癒やす温泉宿 第2回(全17回) 今、行くとしたら、どこの温泉宿なのか。温泉宿ウォッチャーの意見を伺いながら、これまでの湯宿取材と併せ、改めて真剣に考えてみました。
前回の記事はこちら>> 亀の井別荘(大分県 由布院温泉)
大浴場「草の湯」。杉樽を埋め込んだ露天風呂から、天窓のある開放的な内風呂を望む。左手の東屋にも露天風呂がある。心に響くもてなしの名宿
美は細部に宿る──主人の美意識と心配りが、隅々まで、そしてさりげなく行き届いているのが名宿です。伝統に胡坐をかくことなく、常に刷新を続ける、もてなしの名宿を訪ねました。
絶え間なく革新を続ける由布院の名門
全面改装された最上級客室の「百番館」部屋付きの源泉かけ流しのお風呂。ガラスで内風呂と半露天風呂を仕切っている。リビングルーム。左の階段を上るとロフトのベッドルームが。心地よさの理由は常に手を加え続けていること
2021年、創業100周年を迎えた「亀の井別荘」。別府の実業家、油屋熊八の別荘として建てられたことが名前の由来です。
茅葺き屋根の門。この別荘の一切を取り仕切ったのが、加賀出身の中谷巳次郎氏。3代目の中谷健太郎氏が現在のスタイルを確立して由布院の名を全国に轟かせました。4代目の太郎さんが事業を引き継いだのは、13年のこと。
2013年に経営を引き継いだ4代目の中谷太郎さん。暖炉のある談話室にて。「伝統と革新の融合により、1万坪の敷地に由布院の桃源郷をつくりたい」(中谷太郎さん)
40年前には目新しかった古民家の移築・再生の新味は薄れ、老朽化も目立っていたといいます。そこでかねてから縁のあった建築家・柿沼守利さんにリノベーションを託し、女将の眞帆さんとともに改装を始めた2年後の16年、熊本地震が発生。
「大きな被害を受けましたが、大胆な改修への決意が固まり、スピードも上がりました」と太郎さん。19年、「亀の井別荘」の象徴ともいえる最上級の離れ「百番館」のリニューアルが完了しました。
【明治時代の古民家を再々生する】地元農家を約40年前に移築した最上級の客室「百番館」。屋根は茅葺きと杉板葺きの2層。「私たちは常々“あらまほしき日常、日常の延長線上にある非日常”と申してきましたが、日常という言葉の意味も、時代とともに変わるように思います。今は“個人の魂をいかに充足させ得るか”ということを考え、自分たちのありようを模索しています」。
リビングルームには引き戸で隠した大画面テレビとともに「タンノイ」のスピーカーが。静けさはこの宿のかけがえのない美点の一つですが、周囲を気にせず、上質な音で音楽や映像を楽しむことも、離れに滞在することの楽しみとなります。
本館に新設された暖炉。どこかが変わるからこそ、変わらないよさが際立つ。名宿は、そんなふうに歴史を刻み続けます。
下のフォトギャラリーから詳細をご覧いただけます。 Information
亀の井別荘
大分県由布市湯布院町川上2633-1
- 1室2名利用時で1泊2食付き1名3万9600円〜 ご紹介した「百番館」は同8万8000円〜(いずれもサービス料込み、入湯税別) 本館6室、離れ14室 IN15時/OUT11時
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/安藤菜穂子 ※入湯税や宿泊税などが別途かかる場合があります。表示されている宿泊料金は原則、シーズンの最低料金です。INはチェックイン時間、OUTはチェックアウト時間を表しています。料理は状況によって食材、盛りつけなど一部内容が変更になる場合があります。あらかじめご了承ください。
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。