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大切な人のために、葉もの野菜を細かく刻んで。「まごころ」の味がする野菜料理

2022.01.11

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

青菜こまごまのごま和え


青菜こまごまのごま和え

今は亡き師、月心寺(滋賀県大津大谷)の庵主様、村瀬明道尼(むらせみょうどうに)の料理を「秋野菜の吹き寄せ」に続けて紹介します。「身をけずり 人に尽くさんすりこぎの その味知れる人ぞ尊し」という歌があります。それにちなみ、青菜こまごまのごま和えを古備前のすり鉢に盛りました。

料理の前に今日は庵主様が私に一度だけ教えてくださった料理の真骨頂についてお話ししましょう。


庵主様がある有名料理屋で食事をした際、庵主様が来てくれたからとおいしい料理が次から次へと出され感心していたそうです。そんな中、中盤で大根の炊いたものが出てきました。旬の大根だからさぞやおいしいだろうと期待してひと口食べた瞬間、それまでの料理の感動がすべて消えてしまったそうです。

あそこまで気張った料理の中でなぜあの大根を出したのか? あの大根が出なかったらどんなによかったかと残念で、帰りの道中、気になって頭から離れず、一生懸命考えていたら、ふとあることに気づいたというのです。ここから先は庵主様の言葉のまま伝えましょう。

“君がため"に大根を炊いたのではなかったからではないか。大根を魚や肉ほど大切に扱わず、お客さんが多くて忙しいからと前日から仕込んでおいたのだろう。料理はいついかなる時でも“そのとき"“君がため"(大切な大切な一人に食べていただくため)に作るもの。そこに込めた愛情がひとつでも欠けたらゼロになってしまう恐ろしいまでに厳しいものぞ。

それが料理の真骨頂で、そこには楽しさと面倒くささとが同居している。しかし、料理することを面倒だと少しでも思うたら、その料理はたちまち面倒な味になってしまう。面倒くさいと言う人は料理だけでなく、一事が万事、すべて面倒くさいのと違うか。それなら生きていることさえ面倒くさいと思わなくてはあかんのと違うか。

青菜こまごまのごま和えは“その時"“君がため"に作ります。大切な一人の今日の体調、年齢、食体験の度合い、嗜好などを考えて、青菜の種類の合わせ方のバランス、切り方を調整します。

私はプロですから皆にとってそれなりにおいしい料理は作れますが、読者の皆さまの大切な一人にとっておいしい料理を作れと言われると悩みます。今日はレシピを書く筆が進みません。

庵主様は言いました。「榎園、料理は“君がため"。女も一緒ぞ。覚えておけ!」わかるようなわからないような……(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「青菜こまごまのごま和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激

・苦みのある青菜、風味の強い青菜は食べる人の嗜好に合わせて量を加減する。青菜の刻み具合は年齢や歯の強さによって調整。







「青菜こまごまのごま和え」


青菜こまごまのごま和え

【材料】
青菜
・水菜 適量

・ふき 適量

・畑菜 適量

・三つ葉 適量

・壬生菜 適量

・にんじん葉 適量

※青菜は好みで小松菜、ほうれん草、春菊、白菜などと替えてもよい。

和え衣(下記の分量を基本に青菜の量に応じて増やす)
・白いりごま(市販品を軽くいり直す) 30g

・出汁 大さじ1

・砂糖 大さじ1

・薄口醤油 大さじ1

【作り方】
1.ふきは塩もみして3〜4分茹でて冷水に放し水気をきる。上下から筋を取り適宜こまかく刻む。筋の取り方は「干し柿なますの煮こごり」を参照。青菜類は茹でて水に放し、水気を絞って適宜細かく刻む。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。

2.和え衣を作る。いりごまをすり鉢に入れて、ペースト状になる前の粒がわずかに残る状態までする。調味料を加えて混ぜ、1の青菜類を入れてよく和えて器に盛る。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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