“運命” の流れにのって実現する様々な奇跡
緑豊かな森に近いフォンテーヌブローの店は、スイーツだけでなく、パンやお惣菜なども並ぶ昔ながらの理想的なパティスリー。近くには自店で使うベリー類を育てている農園があり、フレッシュな果物を使ったケーキやコンフィチュールは地元の人の間で瞬く間に人気となりました。そんなカッセルさんですがイメージにぴったりの場所で店をオープンし、畑を持つまでに、運命ともいえる様々な偶然が重なったといいます。
フレデリック・カッセルのフォンテーヌブロー本店「最初は店をセーヌ川より上のエリアで探していました。けれど、なんとなく訪れたフォンテーヌブローで“これだ”という物件に運命的に出会い、まったく考えていなかった場所に店をオープンさせました。さらに自分の畑を持ついきさつにも、運命的な出会いがありました。ある日僕の店にふらりと“フランボワーズを買ってくれないか”と近所の農家の方が6箱売り込みに来たのです。
それを食べたら驚くほどおいしかったので20箱欲しいと言ったら、庭で作っているから数がないという。それがきっかけで、彼の持っている畑で、店で使うための果物を作ってもらうようになった。そんな偶然で農園を持つようになりました。
今ではイチゴだけで7種類。そのほかにも、フランボワーズ、サクランボ、ブルーベリー、赤スグリを育てています。ここはピエール・エルメと僕だけの秘密の畑(笑)。祖母が庭の果物でケーキをつくってくれたように、自然の流れとともにお菓子作りができます。畑の収穫が終わればその果物のお菓子は次のシーズンまで作らない。畑を作って10年。お客さんにも浸透してきて“まだイチゴ収穫していますか”なんて問い合わせもありますね」。
契約農家シャルドン家の畑にて。フランボワーズやいちごの秀逸さは群を抜き、ほかのパティシエからもオーダーが入るほど。『フレデリック・カッセル 初めてのスイーツ・バイブル』より。撮影/武田正彦大切なこととは“運命的” に出会う、というカッセルさん。「実はこんなこともあったんだ」と、こっそり教えてくれたロマンチックなエピソードはまさにその象徴でしょう。
ある日、目の前で交通事故に遭遇したカッセルさんは、怪我をした女性を病院に送ります。翌日、怪我をした女性が気になって、お手製のアプリコットのお菓子をもってお見舞いに行きます。そしてその後、なんとその女性と結婚することに! 以来、アプリコットのお菓子にはすべて奥様のエレーヌさんの名前をつけているそう。心優しく、一つ一つの出会いを大切にするカッセルさんの人柄が、優しくて繊細なお菓子に結び付いていると感じられるストーリーです。