どんなときも“おいしそう”で“おいしいもの”を作りたい
日本のショップでもすぐに売り切れてしまうカッセルさんの代表作「ミルフイユ・ヴァニーユ」。2010年、フランスパテイスリー連合主催のコンテストにて「ベストミルフィーユ」を獲得した逸品です。美しい層を織りなすフィユタージュにクリームが挟んである一見王道のクラシックなミルフィーユ。しかしそこには6か月間試行錯誤した工夫が詰まっています。長時間たってもサクサク感をキープするためフィユタージュはキャラメリゼし、クリームには、香り高いタヒチバニラを使用。カリッとしたパイの質感、美しいクリーム、シンプルなのにそのたたずまいからは、只者ではないオーラがあふれています。
ミルフイユ・ヴァニーユ・ドゥ・タヒチ。『フレデリック・カッセル 初めてのスイーツ・バイブル』より。撮影/武田正彦「お菓子作りで重要なことは、1に視覚に訴えること、2に嗅覚に訴えること、最後に味覚に訴えること。と考えています。できたケーキが“食いしん坊に訴えかけるオーラ”を発しているものじゃないとダメですよね。どんなときも“おいしそう”で“おいしいもの”を作りたい。そう思っています」。
そんなカッセルさんのアイディアは本当に豊かで柔軟で斬新! イースターの新作、チョコレートの卵にウサギの絵をプリントしたものは、SNSのスタンプをイメージしたキッチュなもの。時代のムードをとらえた遊び心が溢れています。さらに、新作のプティ・メルヴェイユにはどことなく和菓子の雰囲気が。
フレデリック・カッセルの新作。イースターエッグ。
フレデリック・カッセルの新作。SAKURA。 撮影/武蔵俊介
「10年前、日本に来るまで旅する習慣がありませんでした。でも、日本に年2回訪れるようになって様々な衝撃的な発見がいくつもありました。その発見をお客様に届けたい、そんな気持ちから、感動したものを商品に積極的に取り入れています。和菓子からは“季節感”ということを学びました。また、花が語りかけてくるようなイメージも受けます」。
カッセルさんのお菓子には桜の塩漬けや、山椒、ユズといった日本の食材が頻繁に登場します。それも旅からのインスピレーションを受けて生まれたものが多いと思いきや、実はそれらは、カッセルさんがトップを務めるルレ・デセールでの勉強会も大きいのだとか。
「今から8年くらい前、ルレ・デセールのメンバーである『エーグルドゥース』の寺井さんがあるときユズを持ってきてくれた。その場にいたみんなが、“これはトップクォリティの果物だ!”と大興奮して、自分のスイーツに積極的に使ったことがありました。またこのような国を超えて影響をしあうのは食材だけでなく、言葉や習慣もあります。例えば5年くらい前から“なめらか”という日本語はすでにフランス人パティシエの間では普通に使われる言葉になりました」。
現状に満足することなく、国境を越えていいものを柔軟に吸収していく。フランス菓子の基本はしっかりと守りながら、子供のような純粋な好奇心で生み出される新しいスウィーツは毎年、フランス、そして日本のファンを虜にしています。