ごぼう餅、ごぼうアイスクリーム
今日はごぼうを用いた甘味を2品ご紹介します。「
花びら餅」でもごぼうを用いますが、食味的にはごぼうの役割はアクセントの域から抜け出せません。今回はごぼうなしでは成立しない、ごぼうを前面に打ち出した甘味です。
この連載ではこれまでも、できたてが最高の菓子(「
葛切り」)、コストや保存性などを考慮すると菓子屋が作りたがらない菓子(「
水羊羹」、「
ゆり根きんとん」)、料理人だから思いつく菓子(「
パプリカのアイスクリーム」などの野菜アイスクリーム各種、「
生麩のみたらし」)などをお教えしてきましたが、今回のごぼう甘味はまさに料理人だからこそ思いつく菓子でしょう。
ごぼうで甘味!? いやいや、これがなかなかおいしいのです。「
ごぼうの旨煮」でもお話ししたように、ごぼうを食用とするのは日本をはじめとする限られた国だけですが、調理法のバリエーションといい、日本が一番ごぼうを重宝しています。ごぼうのおいしさを知っている日本人は、食生活、食文化の中で体験的にその上手な活用法を生み出してきました。
混ぜ寿司を作る際にごぼうと干しいたけをみじん切りにして油で炒めて味つけしたものを加えるだけで見違えるようにおいしくなります。ごぼうが入らない「
筑前煮」はあり得ませんし、豚汁もごぼうが入るとこくが増します。魚の煮つけやあら炊きにごぼうは必須。例をあげれば限りがありません。
和食だけでなく、ごぼうをすりおろしたものを隠し味として、煮込み料理やソース、スープなどに少量加えると味に深みが出ます。ごぼうには「メトキシピラジン類」という香気成分が含まれ、同じ成分が一部の赤ワインにも含まれています。それでごぼうを隠し味に加えると赤ワインを使ったようなこくが生まれるのです。
ごぼうは初夏から夏にかけて紫色の花を咲かせ、その花言葉は「いじめないで」「私にさわらないで」。日本以外の国の食文化にほとんど登場しないだけあって警戒心が強いですね(笑)。「大丈夫、君のその秘めた可能性を知ったら、皆、君が大好きになるよ!」野菜菓子を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
「ごぼう餅」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ごぼうはあく(苦みや渋みなど)が強く、茹でて水にさらすとあくは抜けるが、一緒に香りと旨みも抜けてしまう。油で揚げたり、炒めたりした後に調理すると、油の効果で苦みや渋みを感じにくくなり、あくが風味となり香りも残る。
・「ごぼうアイス」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・油分には苦みやえぐみを感じにくくする働きがあるが、多過ぎると風味も感じにくくなる。アイスクリームには乳脂肪分が多く含まれるため、ごぼうの風味が消えないようバランスよく合わせる。
「ごぼう餅」
【材料(3人分)】・ごぼう 150g
・サラダ油 小さじ1
・日本酒 大さじ5(75cc)
・水 大さじ3と1/3(50cc)
・西京味噌 130g
・砂糖 大さじ4
・濃口醤油 小さじ1と1/2
・粉山椒 少々
・角餅 3個
【作り方】1.ごぼうあんを作る。ごぼうはたわしで洗い、6mmほどの厚みで断面が5〜6cmの長さになるよう斜めに切る。鍋に湯をたっぷり沸かしてごぼうを入れ、5分ほど茹でてざるに上げる。
2.フライパンを火にかけサラダ油をひき、ごぼうを入れところどころに焦げ目がつくくらいに炒め、日本酒を加えて火からおろす。
3.2を日本酒ごとミキサーにかけペースト状にして鍋に入れる。水と粉山椒以外の調味料を加えて火にかけ、沸いたら弱火にして3〜4分木べらでかき混ぜながら煮つめていく。火からおろして冷めたら粉山椒を加えて混ぜる。
4.角餅を深さのある耐熱容器に入れて餅がかぶるくらいの水を入れる。ラップをかけずに500Wの電子レンジで約1分30秒〜2分、餅が柔らかくなるまで加熱する。
5.器に餅を盛って温めたごぼうあんをかけ、再度、粉山椒を全体にかけて供する。
「ごぼうアイスクリーム」
【材料(2〜3人分)】・市販のバニラアイスクリーム 100g
・ごぼうあん 35g
・ごぼう 10cm
・揚げ油 適量
【作り方】1.市販のアイスクリームは少し柔らかくしておく。
2.ごぼうは5cmに切って櫛刃をつけたスライサーで2mm角×5cm長さのせん切りにし、さっと水で洗って水気をきる。フライパンに揚げ油を入れて、150〜160℃に熱してごぼうを入れる。きつね色にカラッと揚がったらクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.ごぼうあんは「ごぼう餅」と同じ。1にごぼうあんを加えて混ぜ、冷凍庫に入れる。程よい堅さになったら、スプーン2本を使って成形して器に盛り、上に揚げごぼうをトッピングする。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。