プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 聖護院大根の煮もの
今日15日は「小正月」で、年末の準備から元日、松の内と続いてきた正月を締めくくる行事が行われます。左義長(さぎちょう。どんど焼き、さいと焼きともいう)が有名ですね。煤払いで下げたお札や書き初め、注連(しめ)飾り、門松などの正月飾りを焼いて無病息災を祈り、その火で焼いた餅や団子を食べて一年の健康を祈願します。
正月は昔から一年の始まりの最も重要な年中行事で、大切な折り目の日でした。ところが、正月、小正月、節分、立春……と多くの行事が複雑に混在して、よくわからないまま慣習に従ってなんとなく行われているという実情もあります。今日はそこを整理してみたいと思います。
「
豆かりんとう」でも触れましたが、正月と節分は同じニュアンスをもった行事が非常に多く、それは立春の前日にあたる節分も元々は新春の年迎えの行事だったからです。暦法が採用される前の自然暦(開花や渡り鳥といった植物、動物などの変化を目安にしたもの)の時代には、春の始めを年の始めとしました。したがって、立春(新暦2月4日)が新年の初日で、その前日の節分(2月3日)が旧年の最終日となります。それで節分は「年越し」「年取り」ともいわれるのです。
その後、太陰暦(月の満ち欠けの周期をもとにした暦法)が採用されて1月15日が年の始めとなり、続いて明治6年に太陽暦(太陽が地球のまわりを1回転する時間を1年とする現行のもの)に変わると、1月1日が年の始めに変わりました。このように3つの暦が影響して大正月(1月1日)、小正月、節分・立春と正月が3つに分かれて複雑になったのです。
小正月は「女正月」とも呼び、正月の間中、忙しかった女性を労わる日ともされました。この日に小豆粥(「
七草がゆ、小豆がゆ」)を食べて一家の健康を祈願するのは中国の故事に習ったもので、「望(もち)がゆ」(望は満月の15日を意味する)とも呼ばれます。
正月料理にも飽きたでしょうから、柔らかくて甘く、辛みや大根臭さが少ない聖護院大根をとろとろに炊きましょう。土曜日なので男性陣もお休みですね。レシピ通りに作れば男性にもおいしく作れます。女正月、今日は家事を男性に任せて(笑)ゆっくりと野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「聖護院大根の煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・大根の下茹でには米のとぎ汁や冷や飯を加えた水を用いる。水で茹でると素材から旨みなどの成分が茹で湯に溶け出てしまうが、とぎ汁などの中にはでんぷんが含まれているため、旨みや甘みが溶け出るのを防ぐ。
・また、でんぷんが表面全体を覆って空気中の酸素との接触から守るので、酸化による変色を防ぎ白く茹で上がる。同様に大根が持つ苦みやえぐみ、硫黄臭など不要な成分を吸着し取り除く働きがある。
・大根を柔らかく茹でるコツは、下茹での際に強火で一気に温度を上げて、沸いたら弱火にして茹でる。
・油をひいたフライパンで焼いて焼き目をつけることで、油分が加わり味にこくが出る。
・ベジタリアンでなければ、他の料理に使った残りの鶏肉の皮などを焼いて大根を炊く際に加えると旨みが増す。
・赤唐辛子を辛みが感じられないくらいの量加えて炊くと、味がしまっておいしくなる。
「聖護院大根の煮もの」
【材料(4〜5人分)】・聖護院大根 1/2個
・米のとぎ汁 適量
・サラダ油 適量
・赤唐辛子 少々
・出汁 1L
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・日本酒 大さじ3
・薄口醤油 大さじ2
・みりん 大さじ1
・塩 3g
・水菜 少々
【作り方】1.聖護院大根は葉茎を落として縦に半分に切る。その半分を横に2.5cm厚さに切り、それぞれを食べやすい大きさのいちょう切りにする。黄色い堅い繊維がなくなるまで5mmほどの厚さで皮をむく。
2.米のとぎ汁を鍋に入れ、大根を入れて強火にかける。沸いたら弱火にして柔らかくなるまで10分ほど茹でる。米のとぎ汁がない場合は、残っている冷や飯(冷凍したものでもよい)を湯1Lに対してピンポン球1.5個くらい加えて茹でるとよい。
3.大根が茹で上がったら、水に放して流水の中で表面のぬめりを洗い落とし、傷つけないように優しくざるに上げる。大根の水気を布巾で拭き取る。
4.フライパンを火にかけ、熱くなったらサラダ油をひいて大根を入れる。両面を焼いてきれいな焦げ目をつける。
5.鍋に大根と種を抜いた赤唐辛子を入れて出汁を入れ、火にかける。沸いたら弱火にして調味料を加え、15分ほど炊いて火からおろし30分以上味を含ませる。
6.大根を温め直して器に盛る。鍋に残った大根の煮汁で水菜にさっと火を通し、食べやすい長さに切って添える。柚子の皮の黄色い部分のみをせん切りにしたものを添えてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗