言葉だけでなくともに過ごした時間が大切
作品のイメージを捉えた彼が話す言葉には、まだ見ぬ舞台の世界観へと導いてくれる力がある。そんな松山さんには出会った人から受け取って今なお影響を及ぼしている言葉はあるのだろうか?
「具体的にいえば、森田芳光監督からいわれた“映画は脚本を読んで決めろ”というお言葉でしょうか。俳優として歩む上で、すごくプラスになっています。でも、そこに固執してしまうようにもなるんです。バチッとハマったとしても、それは一つの選択肢でしかない。流れがある中でその言葉にこだわってしまうと、逆行することになるかもしれないですし、自由な流れが止まってしまって淀んでしまう可能性もあると思うんです。だから、いただいたありがたい言葉は数多くありますが、他愛もないコミュニケーションの中から得られるものもたくさんあると思っています。自分が気づけるか気づけないかは別問題ですが、できるだけ会話する機会や時間を大切にしたいです。無駄かもしれない時間にも何か生まれてくるものもあって、印象に残った言葉だけでなく、その人と過ごした時間そのものに意味があると思います」
松山さんが今回のチームとともに過ごし、創り上げる作品には期待が募る。役として生きる時間が多い彼が、自分らしくいられるのはどんな時なのだろう?
「日常で人と二人きりになるのは当たり前にあることですよね。でも、例えば野良猫と二人っきりになるとか、鳥と二人っきりになるとか、虫とかも含めてですけれど、人以外の飼っているわけではない動物と二人っきりになる感覚って、ちょっと違うんです。話しかけても言葉を返してくれるわけではないですし、いつの間にか、ふっといなくなってしまうこともあるんですが、そういう時に自分の時間を過ごしているなと実感できます。自分には予想ができない時間を過ごすことをすごく楽しんでいますし、いい時間だなと思います」
詩に描かれたようなほっこりする素敵な光景が目に浮かぶ。そんなひとときが感性の豊かな彼の表現に生かされている。
松山ケンイチ/まつやま・けんいち
1985年、青森県出身。2002年ドラマ『ごくせん』で俳優デビューし、2003年映画デビュー。2012年NHK大河ドラマ『平清盛』では主役を務める。そのほか代表作には『デスノート』シリーズ、『デトロイト・メタル・シティ』、『ノルウェイの森』、『聖の青春』、『BLUE/ブルー』など多数。第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第59回ブルーリボン賞主演男優賞ほか受賞歴も多数。
『hana-1970、コザが燃えた日-』
返還直前に起きた歴史的にも意義が大きい「コザ騒動」を背景に、“戦後”にある沖縄の縮図のようなバーでの一夜の会話劇。演出は長年にわたって沖縄を見つめてきた栗山民也、脚本はその栗山から書き下ろしを託された作家・畑澤聖悟が手がけた。
内容はコザ騒動の夜に、ある家庭で起きた事件であり、母親と妹、そして血のつながらない2人の兄弟という「偽の家族」が、心からぶつかり合うことでそれぞれ前を向いていく様子を描いている。出演は松山ケンイチ、岡山天音、余 貴美子ほか。
東京芸術劇場プレイハウス〜2022年1月30日
S席9800円ほか。
ホリプロチケットセンター:03(3490)4949
URL:
https://horipro-stage.jp/stage/hana2022/※大阪、宮城公演あり
表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン スタイリング/五十嵐堂寿 ヘア&メイク/勇見勝彦〈THYMON.Inc〉
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。