プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 壬生菜(みぶな)鍋、壬生菜と春菊の高菜粒辛子和え
今が旬の水菜について「
若水菜の辛子ひたし、味噌汁」でお話ししましたが、今回は同じく旬を迎えた壬生菜です。水菜と壬生菜の違い、おわかりですか? 水菜はスーパーマーケットなどでもほぼ通年見かけるなじみの深い野菜ですが、壬生菜は冬にしか店頭に並びません。
水菜は全国で広く栽培されていますが、壬生菜は京都や周辺の地域(奈良県、滋賀県など)だけで主に露地栽培されています。生産量が少なく、値段も水菜の1.5~2倍ほどします。水菜に名前も見た目もよく似た壬生菜は水菜の変種で、1800年頃から京都の壬生寺周辺(壬生地区)で栽培されていたため、この名になったといわれています。
見た目が似ている野菜は意外に多く、「
野菜のかぶら蒸し2種」でも聖護院かぶらと聖護院大根の見分け方をお話ししましたが、水菜と壬生菜は葉の形が違います。
水菜はヒイラギのようにギザギザした細い葉ですが、壬生菜は葉に切れ込みがなく、細長くて縁がへらのように丸いのが特徴です。味も水菜に似ていますが、水菜にはないぴりっとした辛みがあります。元来のものはしっかりとした茎で葉も青々としていますが、近年はハウス栽培の生食できるものも出ています。
壬生菜は生産量も少なく価格も高いので、一般的には水菜のように様々な料理に使われることはなく、壬生菜漬けなど漬けものの材料になることが多いです。関西では古くから親しまれ、野菜が不足しがちな冬の貴重な"越冬野菜"として食べられました。おひたしもおいしいですし、水菜同様、はりはり鍋にしても格別です。
はりはり鍋は、元々は鯨肉と水菜を用いた鍋料理ですが、今は豚肉などを使うことが多いですね。今日は野菜だけのはりはり鍋です。肉の代わりに東坡(とうば)豆腐を使っているのでこくが加わり大変おいしく、こんがり焼いた餅が入ってボリュームもあります。
はりはり鍋の「はりはり」は壬生菜や水菜のシャキシャキした食感や見た目のみずみずしくハリのある様子が由来のようです。今日も“はり”(張り)切って“シャキッ”と野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「壬生菜鍋」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・壬生菜の特徴である
シャキシャキ感を楽しむため、炊き過ぎに注意する。
・肉類を使った一般的なはりはり鍋には粉山椒や七味唐辛子を使うが、壬生菜鍋の場合は控えたほうがよい。壬生菜独特のピリッとした辛みがわかりにくくなる。
・東坡豆腐を作るのが面倒な場合は、
油揚げや市販品の柔らかめの厚揚げで代用してもよい。
・揚げとろろ(「
山いもとろろ鍋」)を加えてもおいしい。
・「壬生菜と春菊の高菜粒辛子和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・壬生菜と春菊のそれぞれの特徴を合わせることでよりおいしくなる。
・ピリッとした辛みがある
壬生菜の柔らかい葉先と香り豊かな春菊の葉は生で。壬生菜の茎はさっと茹でてシャキシャキ感を出す。
春菊の茎はきんぴらにして油分の旨みと歯ごたえを追加。
・同じく冬の青菜である高菜(からし菜の変種)の種から作った、ツンとこないまろやかな辛さの粒辛子を加えて味を引き締める。
「壬生菜鍋」
【材料(3人分)】・壬生菜 2束
・東坡豆腐 絹ごし豆腐1.5丁分
・角餅 3個
鍋出汁
・出汁 800cc
・日本酒 100cc
・塩 2g
・薄口醤油 大さじ1と1/3
・みりん 小さじ1/2
【作り方】1.壬生菜は洗って7cm長さに切る。
2.「
東坡豆腐」を参照し、絹ごし豆腐を4等分して東坡豆腐を作る。
3.角餅をオーブントースターで両面こんがり焼く。
4.鍋出汁を作る。鍋に出汁とすべての調味料を加えて火にかけ、沸いたら火を弱める。アルコールをとばすため2分ほどそのままにした後、火からおろす。
5.土鍋などに鍋出汁を入れて火にかける。沸いたら壬生菜、東坡豆腐、餅を入れる。
「壬生菜と春菊の高菜粒辛子和え」
【材料(3人分)】・壬生菜 70g
・春菊の葉 30g
・春菊の茎のきんぴら 35g
・酢醤油(酢1:醤油1) 40cc
・高菜の粒辛子(一般的な粒辛子でもよい) 20g
【作り方】1.壬生菜は洗って、柔らかい葉先の部分と茎に切り分ける。茎の部分はさっと茹でて水に放して水分を絞り、3cm長さに切る。
2.春菊は洗って柔らかい葉と茎に分ける。茎の部分は2cmに切ってきんぴらにする。「
春菊の茎のきんぴら」参照。
3.酢醤油に高菜の粒辛子を合わせる。
4.ボウルに壬生菜の葉先、春菊の葉、壬生菜の茎、春菊の茎のきんぴらを入れて混ぜる。3を加え、全体にまんべんなく和えて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗