撮影/木寺紀雄ウー・ウェン(うー・うぇん)中国・北京で生まれ育つ。1990年来日。1997年ウー・ウェン クッキングサロン開設。医食同源に根ざした料理とともに中国の暮らしや文化を伝えている。著作多数。料理して、おいしいものを食べて、健康で暮らすことの大切さ
これまでに50冊以上ものレシピ本を出版してきた北京出身の料理家、ウー・ウェンさん。今回ご紹介するのは、自身のライフスタイルを綴ったエッセイだ。
意外にもエッセイを手がけるのは初めてだという。「だって、誰からも頼まれなかったんですもの」と笑うが、今だからこそ、改めて自分の生活を振り返ることができたという。
夫が病死した際、11歳と9歳の子どもを何とか育てなければと夢中で仕事と育児に打ち込んだウーさんの料理と生活は、どんどんシンプルになっていった。ならざるを得なかったのだという。
そして子どもたちが大人になった今、タイトルのとおり、ほんの少しの、本当に大事なことが手もとにある。
「生活とは、生きる活動と書くでしょう? 自分で見たり、考えたり、体を動かさないとわからない。一つのことに集中して、必死になってやっていると、できないこともわかってきます」
たとえば朝ご飯の前に、パジャマのままで家中の床の拭き掃除をする習慣があるという。
「運動はしたいけれど、着替えてジョギングに出かけられる時間的な余裕がないし、居住まいも整えなければなりません。床の拭き掃除が私なりのエクササイズとして習慣になりました。主婦の知恵ですね(笑)」。
料理のレシピも、教室を始めた頃とはかなり変わったそうだ。
「自分の体が欲する味が変わったということもあるとは思いますが、何より大きな理由は、素材の味がずいぶん変わったということ。特に野菜は、味が断然よくなっています。素材を信頼して、素材の味に頼ることが、おいしい料理のいちばんの近道。もちろん素材だっていつも同じ味ではないから、調味料はそのときどきの分量でいい。素材の味がわかることが、シンプルな料理の利点です。たとえばこの本に掲載した“トマトと卵の炒め物”は、トマトもおいしいし、卵もおいしい。おいしいものだけで作るから、まずくなるわけがないんです」
パンデミック発生の前も後も、生活にほとんど変化がないというウーさん。一方で、外食する機会が減り、家で料理をすることに飽き飽きしているという声も多く聞くが、ウーさんはどう考えているのだろうか?
「生きることは、つまり食べることです。食べるものを作ることは、やめることができないことでしょ。だったら、楽しくやったほうがいいに決まっていますが、私にも、どうしても料理したくないときはあります。そんなときは一品しか作らない。うどんでも、おそばでも、何でもいい。栄養バランスのことは、明日元気が出たら考えればいい。楽しくやりましょう!」
写真/木寺紀雄 ブックデザイン/若山嘉代子〈L'espace〉『本当に大事なことはほんの少し』ウー・ウェン 著/大和書房日々の習慣や子育てのこと、母の教え、整理整頓、将来したいこと、そしてもちろん、料理のこと。あれもこれもではないからこそ心に響くエッセイ集。選び抜かれたレシピも大切にしたい。
「#今月の本」の記事をもっと見る>> 構成・文/安藤菜穂子 撮影/本誌・中島里小梨(本)
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。