海老いもきんとん、大和いもきんとん
今日は海老いもと大和いものきんとんを紹介します。海老いもで作ったきれいな薄紫色と、大和いもの白の2種のきんとんが陰陽みたいですね。よくご覧いただくと、それぞれの中にも陰陽を潜ませているのがおわかりいただけると思います。海老いもきんとん(陰)といちご(陽)、大和いもきんとんは太極図の型で成形した陰陽そのもの。太極図(双魚図)は陰陽思想に起源を持ち、陰と陽が互いに補完しあい、常に変化していることを表します。
この連載は楽しむための野菜料理ですが、菜食主義となると話が違ってきます。「主義」という字が表すように、菜食をすることで何らかの考え・立場・方針・主張・意見などを持ち続けているということになります。
一部の菜食主義や薬膳などの基本となる考え方の1つに「陰陽」があります。それらの食事法を始めた最初の段階では、誰でも理論や理屈のみで物事を判断しがちになり、陰性か陽性かの議論を頻繁に行い、ルールを破ることを恐れてガチガチに凝り固まってしまうと、マクロビオティック研究家であり、その世界的権威であった久司道夫(くし・みちお。1926 – 2014)が書いていたのを読んだことがあります。
西洋のイデオロギーは物事を陰と陽のように二項分割し、差異と対立のヒエラルキーを作り出します。その考え方では太極図の双魚を分ける線は陰と陽を区別するための線そのものです。一方、東洋のイデオロギーでは、自とは他あっての自であり、正と反ではなく一体とします。したがって双魚を区別する線は区別のためではなく、双魚を存在させる線(互いの存在を補うための線)だとします。
「よしあしのなかを流れる清水かな」仙厓義梵(せんがい ぎぼん。江戸時代の臨済宗の禅僧)という歌もあります。流れの中に立つ葭(よし)を善(よし)に葦(あし)を悪(あし)にかけた歌で、その間をゆく清水はよしもあしも気にしないで流れてゆくという意味のようです。
先に登場した久司道夫はこうも書いていました。「この地球上のわれわれの生活は、“楽しまなければ”意味はありません。人間は『遊ぶ』ために生まれてきたのです。恐怖心を捨てましょう」
まんざら私も間違っていなかったかも(笑)。野菜料理を“楽しみ”ましょう。
ちょっとしたコツ
・「海老いもきんとん」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・海老いもは
風味を生かすために蒸して加熱する。
・えぐみやぬめりを多く含む皮部分は分厚くむく。繊維立って口あたりがよくない先の細い部分を思いきって落とすことでとろけるように滑らかな食感になる。先の部分は他の料理に使う。「
海老いも饅頭あられ揚げ」参照。
・「大和いもきんとん」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
蒸した大和いもを滑らかに裏ごしして、舌ざわりと上品な風味を楽しむ。裏ごし器がない場合は
ポテトマッシャーでつぶすか、ジッパー付き調理用保存袋に入れて丁寧につぶす。
「海老いもきんとん」
【材料(3〜4人分)】・海老いも 580g
・砂糖 60g
・塩 0.2g
・牛乳 40cc
・生クリーム 20cc
・いちご 適量
・キウイ 適量
・ローストアーモンドスライス 少々
【作り方】1.海老いもは洗って細い部分を思いきって切り落とす。反対側の丸い先の部分も1cm弱切って、皮は5mm以上の厚さにむく。この時点で海老いもの重さは最初の3/4程度になる。
2.海老いもを2.5cmほどの厚さに切り、水でさっと洗って水気をきる。深皿に入れて蒸気が上がった蒸し器に入れて25〜30分ほど蒸す。
3.蒸し上がったら熱いうちに裏ごしする。裏ごし器がない場合はポテトマッシャーでつぶすか、ジッパー付き調理用保存袋に入れて丁寧につぶす。
4.海老いものペーストを鍋に入れて砂糖、塩、牛乳、生クリームを加えて火にかける。焦げないように木べらで混ぜながら、ふつふつとなってから弱火で2分ほど練って火からおろす。バットに平らに広げて上からラップをぴったり張ってそのまま冷ます。
5.いちごは洗ってヘタを除き、縦に4mm幅で切る。キウイは皮をむいて7mm角に切る。
6.海老いもきんとんを絞り袋に入れて器に絞り、いちごをのせる。これを繰り返して海老いもきんとんを3段重ね、キウイとアーモンドスライスを散らす。
「大和いもきんとん」
【材料(3〜4人分)】・大和いも 1本(380g)
・砂糖 90g
・牛乳 60cc
・生クリーム 60cc
・ドライフルーツ(りんご、あんず、クランベリーなど) 適量
【作り方】1.大和いもはピーラーで皮をむいて2cmほどの厚さに切り、水でさっと洗い水気をきる。深皿に入れて蒸気が上がった蒸し器に入れ、20分ほど蒸す。
2.蒸し上がったら熱いうちに裏ごしする。裏ごし器がない場合はポテトマッシャーでつぶすか、ジッパー付き調理用保存袋に入れて丁寧につぶす。
3.大和いものペーストを鍋に入れて砂糖、牛乳、生クリームを加えて火にかける。焦げないように木べらで混ぜながら、ふつふつとなってから弱火で2分ほど練って火からおろす。バットに平らに広げて上からラップをぴったり張ってそのまま冷ます。
4.ドライフルーツは5〜6mm角に切る。
5.3の大和いもきんとんを2つに分け、片方にドライフルーツを加えて混ぜる。太極図の和菓子用木型に2種のきんとんを入れてかたどる。木型がない場合はドライフルーツ入りとドライフルーツなしのものをそれぞれセルクル型に入れて丸く形づくり、半分に切って組み合わせるとよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。