女性特有の不調を解消し、更年期からの健康を支える「性差医療」最前線 第3回(全8回) 初潮から閉経までの約40年にわたり女性ホルモンに庇護され続けてきた私たち女性の体は、更年期を境に次のステージへと入っていきます。こうした性差の視点から成熟世代の女性の健康づくりをサポートしてくれるのが2001年以降、全国各地に設置されてきた「女性外来」です。年を重ねても自分らしく生きていくために──。その扉を叩いてみませんか。
前回の記事はこちら>> 更年期以降に女性が注意したい数値と病気
健康指標となる「健診データ」にも男女の違いが表れます。性差で起こる未来の病気とは?
天野惠子(あまの・けいこ)先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事
NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長
●前回の記事
性差に基づく女性医療を提供する「女性外来」は、年を重ねても自分らしく生きるためのパートナー>>乳腺や子宮以外の臓器にも女性ホルモンは作用している
女性の健康は、初潮から閉経までの約40年、女性ホルモンに守られており、そこにはエストロゲン受容体(ER)が深く関与しています。
女性ホルモンのエストロゲンは、ERと結合することで初めて効果を発現しますが、この受容体にはαとβの2種類が存在します。
「ER-αは主に乳腺や子宮など生殖にかかわる臓器に分布しているのに対し、ER-βは男女を問わず骨、脳、肺、肝臓、膀胱、甲状腺、血管壁、滑膜など人体のさまざまな場所に分布しています。女性の場合、閉経の手前から女性ホルモンの分泌量が減ってくるため、ER-βが存在する臓器もエストロゲンに庇護されなくなり、老化が始まります」と天野惠子先生は説明します。
生殖器以外にもエストロゲンが全身に果たす重要な役割
【脳】
記憶を司る神経細胞のアポトーシス(自死)を抑制し、神経細胞ネットワークの構築を促進
【肝臓】
LDLコレステロールを取り込んで血中へのコレステロールの放出を抑制する
【皮膚】
しみ、シワ、たるみなどの皮膚の老化を抑え、表皮細胞の増殖を促して傷の治りを早める
【骨】
破骨細胞が骨を分解する速度を調整して骨量を維持する
【血管】
動脈硬化の進展を抑制し、血管のしなやかさを保つ。末梢血管の抵抗を低下させ、降圧作用をもたらす
【免疫】
炎症性サイトカインの産生やTリンパ球の働きを抑制し、炎症を抑える
閉経から約15年後には心筋梗塞や脳卒中など重い病気を発症する女性が増えてくる
女性ホルモンが欠乏する閉経後、この影響はさらに大きくなります。天野先生が千葉県で5年間、延べ37万人弱の女性の健診データを調査した結果でも更年期以降の女性の数値には明確な変化がみられます。
「BMI、総コレステロール、中性脂肪、血圧、血糖値などは加齢に伴って男性との差がなくなります。疾患ベースでいうと、動脈硬化のリスク因子である肥満症、脂質代謝異常症、高血圧症、糖尿病などの生活習慣病を発症する危険性が出てきます。放置すると心筋梗塞や脳卒中の発症リスクも確実に高まります。また、骨折の原因となる骨粗しょう症にも注意して早めに対策したいものです」。
◎注意したい数値と病気
・BMI→肥満症女性のBMIは40歳から徐々に上昇し、70代で男性に追いつき、追い越す。一方、男性のBMIは40~49歳をピークに徐々に減少していく。更年期以降は女性のほうが肥満しやすく、急速に内臓脂肪が増加する。
・コレステロール中性脂肪→脂質代謝異常症女性の総コレステロール値は35歳から年齢とともに上昇し、50代では男性の数値をはるかに上回る。65歳以降は徐々に低下していくが、男性よりも常に高い数値で推移する。中性脂肪、LDL コレステロールも上昇し、70代後半まで男性より高い数値が続き、脂質代謝異常症や動脈硬化症のリスクが高まる。
・骨密度→骨粗しょう症40代まで骨密度に男女差はない。女性は閉経に伴い、骨密度が急速に低下し、男性に比べて骨粗しょう症の発症リスクが3倍ほど高まる。
・血圧→高血圧男女ともに加齢に伴って収縮期血圧が上昇する。女性は50代から高血圧になる人が徐々に増えてきて、60代では男女差がなくなり、70代では女性のほうが男性よりも高血圧になりやすい。
・血糖値→糖尿病男女ともに加齢に伴って血糖値が上昇する。40~50歳代前半では男性が女性よりも血糖値は高いが、更年期以降は膵臓のインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)が起こってくるため、50代後半から男女差は小さくなる。
〔特集〕女性特有の不調を解消し、更年期からの健康を支える 「性差医療」最前線(全8回)
撮影/鍋島徳恭 ヘア&メイク/木下庸子〈Plant Opal〉 イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2022年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。