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炊き上がった瞬間が一番おいしいかぶの煮もの。口の中でとろける食感を楽しんで

2022.01.25

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

聖護院かぶらの煮もの


聖護院かぶらの煮もの

聖護院かぶらと聖護院大根の見分け方を「野菜のかぶら蒸し2種」でお教えしましたが、よく似たこの2つにはどちらにも聖護院という名がついています。今日はその成り立ちについてお話しします。

文政年間(1818~30)に金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)に尾張国から奉納された大根を、現在の左京区聖護院に住む農家が譲り受けて栽培しました。元々は普通の大根のような形をしていたものが採種を重ねるうちに太くて丸い短系になり、聖護院大根が生まれたと伝承されます。作物を栽培するのに適した耕土層が浅くて根を深くまで張れない京都の土地に適しており、聖護院一帯に栽培が広がったといわれます。


聖護院かぶら。

一方聖護院かぶらは享保年間(1716~36)に近江の堅田方面から扁平な形の近江かぶが聖護院地域に導入され、栽培を続けるうちに丸い大型のかぶになったという説が広く受け入れられてきました。しかし、最近の研究では近江かぶがもとになったのではなく、近江の兵主(ひょうず)で栽培されていた丸くて白い兵主かぶが現在の京都市淀地域に伝わり、後に聖護院一帯で栽培が盛んになって聖護院かぶらと呼ばれるようになったといわれています。

今日は肉質が柔らかく上品な味わいの聖護院かぶらを大ぶりに切り、柔らかく炊いて大きなかぶら椀に盛りました。かぶは昔から意匠としてお椀だけでなく多くのものに取り入れられました。それは蕪(かぶ)が頭(かぶり)に通じ、頭(かしら)を目指すようにと武家の間で縁起のよい食べ物として広まったことによります。葉が勢いよく繁り、力強く根付くことから「子孫繁栄」、丸いふくよかな姿から「家庭円満」などにも通じるとされました。そういえば賭け事のめくり札の最高位(九)や頭領も「かぶ」といいますね。

長い歴史の中で、そして取り巻く環境の違いで、かぶや大根も大きく丸く柔らかく変わるのですね。私も今からでも改心すれば、器量の大きい丸い柔軟な心を持つ人間になれるでしょうか?(笑)今日も野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「聖護院かぶの煮もの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

かぶの皮は厚めにむく。皮の下には堅い繊維があり、舌触りが悪く苦みが残る場合がある。

・かぶを生のまま食べ、その持ち味と苦みや辛みの度合いを確認して下処理の方法を決める。新鮮で上質なものは茹でずに蒸すだけで十分。調味料の量は、蒸して柔らかくなったかぶの甘みに応じて加減する。

・大根とかぶではかぶのほうが煮くずれしやすい。これは細胞膜が薄いためである。炊くときは、蒸したてのかぶを沸く寸前の熱い出汁に移すこと。蒸して柔らかくなったかぶを冷たい出汁から炊くと、沸くまでの間にかぶの表面と内部の温度が下がり、再び加熱する過程でかぶの組織が再膨張し、煮くずれしやすくなる。

・かぶは炊きたてがおいしく、時間の経過とともに煮汁に風味や甘みが溶け出してしまう。

油揚げを落とし蓋代わりにして一緒に炊くと、油分が加わりおいしくなる。







「聖護院かぶの煮もの」


聖護院かぶらの煮もの

【材料(4~5人分)】
・聖護院かぶら 1個

・出汁 1L
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい

・塩 3g

・日本酒 大さじ4

・薄口醤油 大さじ2

・みりん 大さじ1

・油揚げ 2枚

・おろし生姜 適量

【作り方】
1.聖護院かぶらは葉茎を切って黄色い堅い繊維がなくなるまで5mmほどの厚みで皮をむく。縦に2つに割り、2.5~3cm厚さの半月切りにして角を面取りする。

2.かぶを沸いた蒸し器に入れ、柔らかくなるまで20分ほど蒸す。

3.鍋に出汁を入れ火にかけて沸きそうになったら火を弱め、調味料を入れて好みの味にととのえる。蒸したてのかぶを熱い煮汁に入れて油揚げを落し蓋代わりに上にのせ、弱火で静かに15~20分ほど炊いたら火からおろす。そのまま15分おいて味を含ませる。

4.かぶを温め直して、食べやすく切った油揚げとともに器に盛り、おろし生姜を添えて供する。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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